Web版 有鄰

556平成30年5月10日発行

有鄰らいぶらりい

』 木下昌輝:著/講談社:刊/1,700円+税

兵・表紙

『兵』
講談社:刊

東に名門の今川家、西に新興の織田家。二大勢力に挟まれる豪族・水野家は、水野信元の代で織田家と同盟を結び、生存策を練っていた。信元の弟、藤九郎は織田信長と通じたつもりだったが、来襲した兵の中に意外な顔を見る(「火、蛾。」)

越後の虎、軍神と呼ばれる長尾景虎(後の上杉謙信)に仕え、奇矯な振る舞いも多い主君を支えてきた甘粕景持は、4度目となる川中島の戦いに臨み、死を覚悟する。越後勢は、武田の大軍と激突。そこで甘粕が見たものとは(「甘粕の退き口」)

この世で一番の兵とはだれか? 公家の菊亭公彦に仕える少年、道鬼斎は、たぐいまれな俊足を買われて主の命を受け、荒れた京の都に静謐をもたらす「まことの兵」を探すことになる。悩み、答えを探す道鬼斎に、戦に勝つことでは、まことの兵か分からない、と告げるものがいた(「道鬼斎の旅 壱」)

信長、謙信、信玄、真田昌幸、真田幸村――。桶狭間の戦から大坂の陣まで、決戦を渡り歩いた道鬼斎が知る、この世で一番の兵とは? アンソロジー「決戦!」シリーズに寄せた短編など6編に、「道鬼斎の旅」220枚を書き下ろした戦国連作。卓抜な着想で戦国時代を俯瞰し、描き上げた気鋭の傑作。必読の一作だ。

引き抜き屋①②』 雫井脩介:著/PHP研究所
1巻:1,700円+税 2巻:1,800円+税

兄の死により、鹿子小穂は大学を出てすぐにアウトドア関連メーカー〔フォーン〕に入社した。父の隆造が30年前に創業して以来、社員220人、東証1部上場も果たした〔フォーン〕は、“フォーニスト”と呼ばれるファンも多い優良企業だ。

上場をピークに業績が伸び悩んだ〔フォーン〕では新たな人材を探すことになり、ヘッドハンターの戸ケ里が連れてきた男が、一流商社出身の大槻信一郎だった。常務に就任した大槻の矢継ぎ早の改革を危ぶみ、ただ1人、反対意見を述べた小穂は、社長である父・隆造によって取締役を解任されてしまう。辞表届を出した小穂は、元ビジネス誌編集長のヘッドハンター、並木剛に預けられ、外の世界に飛び出した――。

京都に本拠地があるホテルの東京出店計画で、担当を任せられる人材探しを手始めに、ライバル社との駆け引きが繰り広げられる。そもそもが高収入・高学歴のエグゼクティブを秘密裏に引き抜いて斡旋、成功につなげるヘッドハンターの仕事を通し、小穂は社会を知っていく。

『犯人に告ぐ』、映画化され、8月公開予定の『検察側の罪人』などの名作で知られる著者による、躍動感あふれるビジネス小説。小穂が成長していく姿も読める。

豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件
倉知 淳:著/実業之日本社/1,600円+税

1944年(昭和19)12月、長野県にある帝国陸軍の研究施設で、兵士の遺体が発見された。施設周囲の雪原には足跡1つなく、部屋には頑丈な鉄のかんぬきが掛かり、完全な密室状態。遺体の頭部中心には豆腐が粉々に散乱しており、どう見ても豆腐の角に頭をぶつけて死んでいるようにしか見えない。密室の研究施設で起きた事件の真相とは――(表題作)

人を殺してみたい、相手など誰でもいい、理由も、特にない……。続発する通り魔事件の報道を見た「俺」は、相場とギャンブルに手をだして借金まみれになっていた。未婚で資産家の弟をターゲットに、連続通り魔を装う完全犯罪を目論むが――(「変奏曲・ABCの殺人」)

パティシエ(菓子職人)の専門学校に通う21歳の女性が、マンションの自室で扼殺された。顔見知りの犯行か? 1点だけ、不可解なことがあった。被害者の口に、1本の長ネギが突き刺さっていたのだ――(「薬味と甘味の殺人現場」)

ユーモア&本格推理。ふらふらと遊び暮らす、呑気な先輩が登場する「猫丸先輩」シリーズの最新作も含め、奇想と遊び心あふれるミステリー6編を編んだ短編集。著者の魅力を堪能できる、ミステリー・バラエティ。

雪の階』 奥泉 光:著/中央公論新社:刊/2,400円+税

1935年(昭和10)、数えで20歳になる華族令嬢の笹宮惟佐子は、演奏会で会う約束だった宇田川寿子が現われないのを奇妙に思った。世間を騒然とさせている「天皇機関説問題」をめぐり、父同士は対立していたが、惟佐子と寿子は親友だ。寿子の性格からすると、連絡もないのはおかしい。帰宅した惟佐子は、寿子の失踪を知る。

しばらくして、〈楓様。今日のコンサアト、ごめんなさい、行けなくなつてしまひました〉という、寿子からのはがきが惟佐子に届く。しかし、それも奇妙だった。〈今日〉と記しながら6日のコンサートと違う8日午前10時、〈仙台中央〉の消印で投函されていたのだ。倉敷にいるとも聞いたが、なぜ仙台ではがきを出すのか? 翌日、寿子の死体が樹海で発見されたと報道される。傍らには青年将校の死体もあったという。

報道から2週間後、カメラマンの牧村千代子は、新聞記者の蔵原誠治に宇田川寿子の事件に関する取材を持ちかける。旧知の惟佐子から調査を依頼されたのだ――。

法曹一家令嬢の情死事件を発端に、2人のヒロインが謎を追う。二・二六事件と開戦が近づく、昭和初期を舞台にした歴史ミステリー。流麗な文章が織りなす小説世界に浸り込める。著者ならではの見事な大作である。

(C・A)

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