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第80回 2009年8月20日

●執筆者紹介●
 
加藤泉
有隣堂 読書推進委員。
仕事をしていない時はほぼ本を読んでいる尼僧のような生活を送っている。

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〜編集者が語る田辺聖子作品の魅力〜 (3)

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  新町:   このあたりでやめておきますか(笑)。 私も「乃里子三部作」でも他の小説でもたんまりありますが、キリがなくなってしまう! では追加であと一つ。
おかあさん疲れたよ』より、

「感嘆符が付かな、あかんねんわ。 あたし、『運がよかった!』と思ってるわ、あたしの人生——」

  『おかあさん疲れたよ 上』
  おかあさん疲れたよ 上
 
  『おかあさん疲れたよ 下』
  おかあさん疲れたよ 下
 
「さっきは、あたしが『人生は短い』という結論を出して、浅尾サンが、『他人(ひと)は偉い』という発見を結論にしたけど——何ンか、もっとありそうな気がして、探してたら、やっと思いついたの。 つまり、『運がよかった!』という究極のフレーズ」というセリフに続く一言です。 この作品のあぐりは30代後半という女ざかりに戦後をすごし、生涯独身で家族を支えて生きてきました。 それでも「運がよかった!」と思えるということ、これはどんな方にでも人生に灯りを点すすべての一言ではないかと。
先日、この作品をお読みになった中村江里子さんとお話する機会があったのですけれど、江里子さんもこのあぐりの生き方にはまって号泣したと話していました。 思い出しながら話すだけでお互い目に涙が浮かんできてしまいました。
でも、きっとそれぞれに「ビビビとくる一言」がたくさん見つかるのが田辺さんの作品なのだと思うのです。 解説を拝読していても、作家の方々が「しびれた」一言が引用されていたりしますよね。 もちろん「そうそう!」なんて大賛成して読みつつも、「あ、でも私これもいいなァ……」なんてこっそりほくそ笑む、それも田辺作品ならではの楽しみ方かもしれません。 付箋や鉛筆が必需品ですよ(笑)。

 
  加藤:   たくさんの名言をご紹介していただきありがとうございました!
これから田辺作品を読み始めよう、と思う方たちにはどの作品からお勧めになりますか?

 
  新町:   まず絶対的に「乃里子三部作」はおススメです。 長編ですが、ある30代の超大物女優の方が「私普段小説読まないのに、台本読まなきゃいけないときにもかかわらずページをめくる手が止まらなくなっちゃった」とおっしゃったほど、「乃里子」を中心にした恋愛小説は胸を射抜かれます。 男の方には『春情蛸の足』は絶対にいいと思いますよ。 うちの夫は恋愛小説が基本的に苦手なのですが、これは持ち歩いて、この通りにご飯作って、なんて言ったりもします(笑)。 これは短編集なのでもちろん女性でもおススメです。 基本的に健気な男たちの食と恋の短編集なのですけれど、小川糸さんが「この作品を読んで男性のことがちょっとわかりました!」っておっしゃっていましたから。 『愛の幻滅』には「組み合わせ一つでええ女になったり、わるい男になったりする。 ええ組み合わせは一生に、そう何べんもできるもんやあらへん。 」とか、「恋のホンモノを手に入れたあと、もう気の抜けたニセモノの恋では満足できない」とか、恋愛に関する「私の一言!」が必ずみつかる作品でもあります。 ただ、上下巻なので……。
  『残花亭日暦』
  残花亭日暦
 
私が初心者としてがっつりはまったのは、すみれとワタルの恋愛小説、『愛してよろしいですか?』『風をください』のシリーズ。 集英社文庫です。 読み終わって「ああ、こんな温かい作品を読めてよかった」と涙が止まりませんでした。 有名な角川文庫の『ジョゼと虎と魚たち』も大好きですが、私は長編を読んでから読んだほうが、より“はまる”ように思います。
エッセイでしたら、角川文庫の『残花亭日暦』を是非。 これはご主人の「カモカのおっちゃん」がなくなったあたりのエッセイを集めたものなのですが、田辺さんの生き方がすっと入ってくる名作です。
集英社の村田さんからは下記のメールをいただきました。

 
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1. 『隼別王子の叛乱』 中公文庫
2. 『鏡をみてはいけません』 集英社文庫
3. 『まいにち薔薇いろ 田辺聖子 A to Z』 集英社

1.「『古事記』の世界と、王朝の世を、夢みつづけ、何十年もあたためてきた〈お話〉を、また再び、新しい世代の読者に提供することができて、私は本懐を果たした思いである。 日本の、遠つ世の恋に、王朝びとの情熱や悲嘆に、心を寄せて下さる若い読者に期待したい。 時を遡航し、彼の世の人々に手を触れ、心に抱きしめ、それによって、生きる喜びを深く味わって下されば・・・・・・」
全集4の解説にあります。
選びぬかれた美しい言葉で読む恋と謀反の大ロマンス。 陶酔の物語。 読むたびに、発見があります。

2.は子供のいる男と暮らすことになった絵本作家のヒロインの心模様が、さまざまな、朝ご飯レシピ、夕ごはんメニューと共に愉しむことができる恋愛小説。 子供が出てくる恋愛小説はこれだけですね。 〈朝ごはん〉小説ともいえます。

  『まいにち薔薇いろ 田辺聖子 A to Z』
  まいにち薔薇いろ
田辺聖子 A to Z

 
3.全集が完結したときに、田辺文学と聖子流楽天的で愉しい生き方を、もっともっと若い人たちに知ってほしくて作りました。 単行本未収録の小説入り。 小説中に出てくるお料理も再現して紹介してます。

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村田さんがご紹介くださった『田辺聖子 A to Z』は本当に保存版です。 『春情蛸の足』を読んで私は関西風のお好み焼きやすき焼きを作っているのですが、それらがビジュアル化もされていたり、小説も分野別に分けられて細かく説明してある。 私も愛読書です。

 
  加藤:   なるほど。 またもやたくさんご紹介していただいてありがとうございました!
読書の愉しさって何なのだろう、と考えることがよくあります。 本から得た感動を一人でじっくり味わって何度も反芻するという愉しみも勿論ありますが、感動を誰かと分かち合うことこそ読書の醍醐味なのではないかと、新町さんとお会いしてあらためて思いました。 当たり前のようでありながらこんなに大事なことに気づかせてくれた新町さんに心から感謝しています。

 
  新町:   そういっていただけて本当に嬉しいです。
私も田辺さんにまず感謝しています。 そして田辺さんと素晴らしい作品を生み出してくださった今までの編集の先輩方、本を売り続けてくださった書店の方々、もちろん多くの読者の方々にも。 みなさんがいらしたからこそ、私たちはこうしていま「現代もの」として田辺さんの作品を普通に読むことができるんですから。
先日、集英社の村田さんや緑川も含め、書店員の方や映像関係の方も交えて「言い寄りストランチ」と名づけた「田辺さんの作品を語るランチ会」を開いたんです。 そこで「あの作品ははまるよね〜」「言い寄る映像化するとしたら誰がいい?」なんて勝手気ままな話をしたのですが、楽しくて楽しくて。 確かに田辺さんの作品は、ひとりで何度も読み返す楽しみもありますけれど、「ねえねえ、ちょっとあれ読んだっ!!」と言いたくなってしまう「宝物」の一言がある。 それをちょっとお酒もいれながら(笑)、会社とか業種を超えて話す、「話し甲斐のある作品たち」なんですよね。 こういう素敵なものをきちんと残していく、これも今編集の場所にいる私たちの役割なのではないかと思います。

 
  加藤:   これからも田辺聖子さんの文庫復刊を楽しみにしています。
新町さん、今日はお忙しい中、本当にありがとうございました!

 
 
 

インタビュー/文・読書推進委員 加藤泉

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