Web版 有鄰

528平成25年9月3日発行

図鑑革命と図鑑ブーム – 1面

親野智可等

従来の博物型に対し新型のテーマ型図鑑

書店の一角に所狭しと並べられている大判の図鑑の数数…。決して安い本ではないのにけっこう売れている様子で、私が住んでいる地方都市の書店でもかなりのスペースを図鑑に割いています。

今、図鑑革命と図鑑ブームが同時に起こっています。つまり、従来型の図鑑とは違った新型の図鑑が続々と登場し、いずれも大いに部数を伸ばしているのです。

そして、それに牽引される形で従来型の図鑑にもいろいろな革新が起こり、こちらも部数を伸ばしています。では、従来型と新型はどう違うのでしょうか?

例えば昆虫図鑑のように、いろいろな昆虫が羅列的かつ博物的に紹介されているものが従来型です。小さな写真やイラストと解説文がずらっと並んでいるイメージです。私はこれを博物型図鑑と呼んでいます。

今新たに登場している新型は、これとは少し違って、特定のテーマのもとに編集されている図鑑です。私はこれをテーマ型図鑑と呼んでいます。

例えば、『なぜの図鑑』(学研)は「なぜ」をキーワードにしたテーマ図鑑です。つまり、「なぜうさぎの耳は長いの?」「なぜ夜になると星が出るの?」など、子どもたちが日ごろから抱く疑問をテーマにして、それに答える形で編集されているのです。

また、『くらべる図鑑』(小学館)は、「くらべる」がキーワードです。つまり、乗り物や動物などの速さを比べたり、恐竜や現代の建物の大きさを比べたりしています。

いずれも、子どもたちが興味を持って読めるようなテーマを選りすぐって、ワンテーマ見開きで展開されています。また、ビジュアルが重視されて迫力がある写真や美しいイラストも満載です。

事典よりも絵本に近いつくり方になっているので、読み物としても楽しめます。実際、大人が読んでも実におもしろく読めます。そして、「へえ。そうなんだ!なるほど」という発見の連続で、かなりの知的な刺激を受けることができます。

もちろん、冒頭でも触れたように、従来からある博物型の図鑑も負けずに進化しています。以前のものに比べていろいろな新しい工夫がなされているのです。

写真やイラストも以前のものに比べてはるかに美しく迫力があります。また、単に多くの種類を羅列的に紹介するだけでなく、おもしろく読めるミニ知識や興味深いコラムもたくさん挿入されています。

図鑑選びは入門としてテーマ型興味の分野は博物型

というわけで、子どもに図鑑を用意してあげるときは、このような現在の図鑑の種類とそれぞれの特質を理解しておくことが大切だと思います。

テーマ型の図鑑でしたら、もともと子どもたちがおもしろく読めるテーマを選んで編集してありますので、大概の子は楽しく読めます。ですから、図鑑の入門として、男女を問わずに、またその子の興味関心をそれほど考慮しなくても買い与えて大丈夫です。

でも、博物型の図鑑については誰にでもどの図鑑でもいいというわけにはいきません。例えば、恐竜に一切興味がない子に恐竜図鑑を買い与えても、あまり読まない可能性があります。

つまり、博物型の図鑑は、もともと興味のある分野のものを買い与える方がいいのです。恐竜に興味がある子に恐竜図鑑をあげれば当然食いつきますから。

もちろん、はじめは興味がなくても、そこにあった図鑑をめくっているうちに興味を持ち出すということもありますので、経済的に余裕があるならいろいろな分野の図鑑を一式揃えるというのもいいと思います。

また、後で紹介する、テレビや親子の会話をきっかけに”図鑑を引く”ことを取り入れる場合は、各分野の図鑑が一式揃っていた方がいいということもあります。


有隣堂テラスモール湘南店の図鑑フェアコーナー

ここまで現在の図鑑の状況や図鑑の選び方などについて書いてきましたが、一般的な親御さんたちにこのような情報が十分行き届いているとは言えません。

ですから、まずは図鑑を売る側がこのようなことを理解して、売り場に来た人たちにもそれを伝えるための工夫が必要です。

生活の中で“図鑑を引く”習慣を

さて、私が今図鑑に注目しているのは、図鑑こそ子どもたちの学力の底上げに役立つ優れものだと考えているからです。

例えば、テーマ型の図鑑は絵本のように楽しく読めるので、子どもたちはどんどん読んでくれます。しかも、美しく迫力のある写真やイラストのおかげで繰り返し読みます。当然、いろいろな分野の情報や知識が吸収されていきます。

その間に、平仮名や片仮名がどんどん読めるようになります。解説文には漢字もかなり使われていますが、すべてルビがついています。ですから、漢字もどんどん読めるようになります。

言葉を覚えて語彙も増えます。文章を読み取る読解力もつきます。記憶力も思考力も伸びます。つまり、図鑑に親しんでいるうちに、いわゆる勉強をする上で必要な能力が自然についていくのです。

博物型の図鑑もまた学力アップに大いに貢献してくれます。例えば、テレビでトラのことを扱った番組を見たら、動物図鑑でトラについて調べてみるのです。あるいは、家族との会話でトラのことが話題になった場合も同様です。私はこれを”図鑑を引く”と呼んでいます。

そこには、いろいろな種類のトラが出ています。トラの住んでいる場所、餌、狩りの仕方、走る速さ、子どもの育て方なども出ています。

たとえこれらの全てを読まないにしても、ちょっと読んだだけでも知識が増えます。そして、読んだ項目にマーカーペンで印をつけて、足跡を残しておきます。

また、例えば、テレビでタレントがオーストラリアを旅する番組を見たら、地理図鑑でオーストラリアを調べてみます。すると、オーストラリアの位置、形、特徴、言葉、自然環境、動物、植物、歴史などいろいろな情報に接することができます。

新しい銀河が発見されたというニュースを見たら宇宙図鑑で調べ、花粉症やアレルギーについて見たら人体図鑑で調べます。

テレビや親子の会話がきっかけになるだけでなく、実際の体験もきっかけになります。かっこいい乗り物に乗ったら乗り物図鑑で調べ、本物の縄文土器を見たら歴史図鑑を調べ、暑中見舞いを書くことになったら生活図鑑で調べます。

これらの方法が図鑑の使い方の基本ですが、この他にも、工夫次第で図鑑をもっと有効に活用する方法がたくさんあります。いずれも、博物型でもテーマ型でも使える方法です。

調べるだけではない図鑑の活用法

子どもたちが大好きなのが、図鑑の写真やイラストをトレーシングペーパーでなぞって描き写す方法です。迫力のある動物、かっこいい乗り物、きれいな植物など、子どもたちは描き写すのが大好きです。

描き写してから色も塗れば、すてきな絵ができあがります。それを自分のノートに貼ってタイトルも書いておきます。これを続けると自分のオリジナルの図鑑ができます。

私は今年の4月に都内の書店で図鑑の活用法を紹介するイベントを行いましたが、このトレーシングペーパーを使う方法は子どもたちに大受けでした。3・4時間ずっと描き写していた子もいたくらいです。

図鑑をもとに、三択クイズ、○×クイズ、穴埋めクイズなどのクイズを作るのも楽しいです。例えば、次のようなクイズです。

【三択クイズ】
《問題》 クモは自分の巣の上を歩いても巣にくっつきません。なぜでしょうか?

ア.クモの足から水が出ているから
イ.クモの巣のたて糸はくっつかないので、たて糸のところを歩いているから
ウ.糸がくっつかない靴のような物をはいているから

【穴埋めクイズ】
《問題》 次の説明文の()を埋めてください。

自分で熱と光を出す星のことを(1)といい、私たちの地球を照らしている(2)もその一つです。その周りを公転する比較的大きな天体のことを(3)といい、私たちが住んでいる(4)もその一つです。

この他にも、図鑑をもとにオリジナルなカルタを作る、図鑑を自由研究に役立てるなど、いろいろな活用方法があります。詳しくは拙著『親子で楽しむ!頭がいい子の図鑑の読み方・使い方』(あさ出版)を参考にしていただければ幸いです。

より多くの子どもたちに、図鑑というすばらしいツールを大いに活用してもらいたいと思います。そして、知的好奇心をぐんぐん伸ばしていって欲しいと願っています。

親野智可等さん・写真
親野智可等 (おやの ちから)

1958年静岡県生まれ。教育評論家。
著書『小学生の学力は「ノート」で伸びる!』すばる舎 1,400円+税、『「親力」で決まる!』宝島社(品切)など多数。

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