Web版 有鄰

531平成26年3月4日発行

有鄰らいぶらりい

わたしはマララ』 マララ・ユスフザイ、クリスティーナ・ラム:著/学研パブリッシング/1,600円+税


『わたしはマララ』
学研パブリッシング:刊

パキスタン北部山岳地帯のスワート地方は、東のスイスとも形容される美しい場所だ。一九四七年にイスラム国家パキスタンが独立するにあたり、その一部になった。

著者は、アフガニスタンやパキスタンに住む民族、パシュトゥン人の娘として、1997年にスワート渓谷で生まれた。著者の家庭は自由な気風にあふれていたが、社会には女性を縛る不自由な掟が残っていた。10歳のとき、イスラム武装勢力のタリバンが現われる。パキスタン政府軍とタリバンが衝突し、スワートは暴力が横行する紛争地になる。2008年12月、「すべての女子校を閉鎖し、女子が学校に行くことを禁止する」声明をタリバンが発表。11歳だった著者は、2009年1月から、英BBC放送のウルドゥー語ブログにペンネームで日記を投稿し、教育を受ける権利を訴えた――。

本書は、教育のために立ち上がり、2012年10月9日(当時15歳)、スクールバスの中でタリバンに銃撃され、イギリスに脱出して命を取りとめた著者の手記である。イギリス人の国際ジャーナリストが共著者になり、紛争と政争が相次ぐ母国パキスタンの歴史と、社会情勢に翻弄される家族と少女の切実な思いを描きだす。平和と教育の大切さを訴える、必読のノンフィクションである。

』 小山田浩子:著/新潮社/1,200円+税

夫の転勤を機に仕事を辞めた「私(あさひ)」は、県境に近い田舎の町に越し、夫の実家の隣にある借家に住むことになる。義父母の好意で家賃は無料。姑は明るく面倒見のよい性格で、嫁姑の問題もない。6時前に起き、夫の弁当を作り、夫の朝食を準備し、夫を送り出して自分の朝食も食べ、最寄のスーパーへ行き洗濯や掃除をすると、あとは特にすることがない。朝から晩まで働いていたのが嘘のような、専業主婦の生活が始まった――(表題作)。

1月に選考が行われ、第150回芥川賞を受賞した表題作のほか、夫婦二人暮らしの夫(僕)の視点から、旧友が40歳を過ぎて結婚し、さらにその夫婦に赤ん坊が生まれて……という日常的な変化を描きとめた「いたちなく」「ゆきの宿」の2編を収録。3編とも、黒い獣、いたちや水生生物など、人間以外の生きものの気配がある。

表題作で専業主婦になった「私」のそばには、黒い獣が出没する。夫の実家には義父母だけでなく、より高齢の義祖父が住む。一人っ子だったはずの夫に、実は義兄がいたという。「私」は義兄と話すようになるが……。

「私」や「僕」の目が捉えた世界を、文章の力で写生して、”ごく平凡な日常”の深みにはまる。観察眼と文章力にうなる1冊だ。

秘密』上・下 ケイト・モートン:著/東京創元社/各1,800円+税

1961年、イングランドのサフォーク。簡素だが手入れの行き届いた民家《グリーンエイカーズ》で、ニコルソン家の長女ローレルは、両親の愛に包まれて幸福に暮らしていた。ある夏の日、怖ろしい事件を目撃する。突然訪ねてきた見知らぬ男の話にしばらく耳を傾けていた母が、その男の胸にナイフを突き立てて死亡させたのだ。男は連続強盗犯で、母の正当防衛が認められたが、ローレルの胸に一抹の疑問が残る。

50年後の2011年、女優として大成したローレルは、死期が近づいた母を見舞いに帰郷し、母の枕元で古いアルバムを開く。古い本に挟まっていた写真と「ヴィヴィアン」という未知の女性の名前をきっかけに、母の知られざる過去を探ることになる。そのとき、死に瀕してこんこんと眠っているように見えた母の心も、遠い過去へとさかのぼり始めていた。

オーストラリアの女性作家が2012年に発表した、第4作目の長編小説。1961年の夏の日の殺人事件を起点に、「母の過去」がスリリングに描かれる。時空と時空をつなぐ巧みな構成とスリリングな筆致が素晴らしく、読者を物語へと引きずり込む。読み終えたとき、大切なテーマが浮かび上がる。母国オーストラリアでABIA年間最優秀小説賞を受賞した傑作。

波形の声』 長岡弘樹:著/徳間書店/1,600円+税

蟹はどちら向きに歩くのか?磯蟹で実験をしてクラスの注目を浴びた小学4年生の男児が、補助教員の谷村梢に”ある教員が万引きをしたのを見た”と打ち明ける。ほどなく、その生徒が自宅で襲われた。事件直前、「谷村先生」と言う声を聞いたと近所の人が証言し、犯行を疑われた梢は……(表題作)。

須貝欣一は、1948年の選抜高等学校野球大会に出場し、短い登板だったが甲子園のマウンドに立った経験を持つ。自宅のはす向かいに住む瀬川兵輔は、1948年の甲子園出場をかけた県大会の決勝で、最終回まで投げ合った相手高校の投手だった。ともに82歳になった二人は、近所に住むようになった10年前から再びライバル同士だ。最近、新たな競争が浮上した。どちらが先に運転免許を返納するか?兵輔の運転ぶりを意識する欣一に、嫁のゆかりは「負けてあげろ」というのだが……(「宿敵」)。

昨年刊行の『教場』が「2013週刊文春ミステリーベスト10」の第1位、「このミステリーがすごい!2014年版」の第2位になり、「2014年本屋大賞」(4月8日発表)にもノミネートされた著者による最新作品集。短編ミステリーの名手として知られる著者が、2009年~2013年の間に小説誌に寄せた、巧緻な7編を収録。

(C・A)

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