Web版 有鄰

542平成28年1月1日発行

有鄰らいぶらりい

95』 早見和真:著/KADOKAWA:刊/1,600円+税

『95』表紙画像
『95』
KADOKAWA:刊

2015年年末、母校・星城学院高等学校の女子生徒から「『1995年』の話を聞かせてほしい」と頼まれた37歳の広重秋久は、渋谷に来て“郷愁”を覚える。高校時代に仲間とたむろした店に現われたずっと年下の後輩は、長身の美少女だった。新村萌香という名の彼女に問われるまま、秋久は1995年の出来事を語り始める。

1995年、“星学”に通う平凡な優等生だった秋久は、3月20日に発生した「地下鉄サリン事件」に衝撃を受ける。渋谷の電気店に並ぶテレビで被害者が苦しむ映像を見つめていた秋久は、制服姿の女子高生が“援助交際”で会社員とホテルに入る姿も渋谷で目撃する。上空を飛ぶヘリの音、サイレンの音。「死」と「生」の混沌に動揺する秋久のもとに、電話がかかる。“秘密基地”に呼びだされた秋久は、優等生の衣を脱ぎ捨て、渋谷センター街を闊歩するスリリングな日々を送るようになる――。

時代の転換期となった1995年をテーマに、当時高校生だった主人公が経験した出来事と、20年後の「今」を描く。ポケベル、父を亡くした少女への恋、喧嘩、街の変化と時代。『イノセント・デイズ』で日本推理作家協会賞を受賞した気鋭が、“共通の記憶”を描ききった青春エンターテインメント。

墓標なき街』 逢坂剛:著/集英社/1,800円+税

私立探偵の大杉良太は、東都ヘラルド新聞編集委員の残間から、違法な武器輸出を行う企業を内部告発してきた人物の尾行を依頼される。残間は、かつての上司でオピニオン誌編集長の田丸から、「百舌」の記事を書くよう持ちかけられていた。殺し屋「百舌」が暗躍し、当時警察官だった大杉も深く関わった、だいぶ前の極秘事件だ。

翌日、尾行を開始した大杉は、告発者の自宅と勤務先を突き止める。それだけでは手を引きがたく感じ、娘のめぐみに連絡を取ると、警視庁に所属するめぐみは男の名を知っていた。どんなヤマと絡んでいるのか?その頃、警察庁特別監察官の倉木美希が襲われ、コートの中に百舌の羽根が。さらに残間に原稿を依頼した田丸が、「百舌」独特の首筋を一突きする方法で刺殺されてしまう――。

第1弾『百舌の叫ぶ夜』が1986年に刊行されて以降、累計240万部を超える『百舌シリーズ』の13年ぶりの新作。西島秀俊主演で2014年にテレビドラマ化され、2015年に『劇場版MOZU』が公開されて好評を博す折の話題作だ。不正武器輸出と過去の百舌事件が交差する中で相次ぐ、殺人事件の真相は?大杉良太、倉木美希ら、魅力的な人物がふたたび活躍。手練の筆致を堪能できる快作である。

決戦の島』 犬飼六岐:著/講談社:刊/1,500円+税

年の頃は30過ぎ、吉岡一門の流れを汲む吉岡清三郎は、剣の腕前を元本として貸し出し、返却の際に利息を得る「貸腕屋」で暮らす。1年半前の決闘で死にぞこない、内臓に穴があいたせいか、傷が癒えた後も、腹が減ると足腰が立たなくなる。

旅を終えて江戸の借家に戻ると、過去の対戦相手に障子を破られ、落書きまでされているありさまだった。いじめられっ子に稽古をつけ、悪相の男の苦境を助け、白無垢姿で転がり込んできた女、瑞枝をかくまう。支度金の残りを持って父が逃げたという瑞枝を家に置く清三郎は、頭の算盤で利息をはじきつつ、実は人情味のある男だ。

流れるままひょうひょうと生きる、破天荒な剣豪の姿を描く「吉岡清三郎貸腕帳」シリーズの最新刊。7編を収める。待てども対戦相手が来ず、仕合の場所で清三郎が待たされる「決戦の島」は、吉川英治『宮本武蔵』へのオマージュと言えるユニークな名編だ。浦賀沖に浮かぶ猿島を舞台に、四藩による対抗戦が行われる。ようやく現われた相手は鎖鎌の使い手で、残る2つの流派とは。見世物にされた清三郎が、巌流島ならぬ「四流島」を疾駆する。

剣戟あり、ほのかな恋心あり。各編がゆるやかにつながりあい、別世界へと読者を誘う、痛快時代小説。

キッチン・ブルー』 遠藤彩見:著/新潮社:刊/1,400円+税

人前で食事ができない会食不全症候群になった古谷灯は、この10年、引きこもって暮らしていた。製薬会社に勤める蝦名と親しくなるが……(「食えない女」)。仕事も結婚生活も順調だが、料理下手が悩みの青山沙代は、料理教室に通い始める。そこで出会った真梨の言動に苛立ちをつのらせてしまう(「さじかげん」)。階下のカップルがたてる騒音のストレスで、寺田希穂は味覚障害に陥った。ボランティアで知り合った堀の家で飲むことになり……(「味気ない人生」)

食の憂うつ(ブルー)をめぐる、6編を収録。引きこもりの脚本家、料理が苦手な妻、食事する姿で女たちの力関係を探る派遣社員、フロアから厨房に飛ばされたキャバクラ嬢、リッチすぎる料理の差し入れに翻弄される役者。〈ままごとは、ただのままごとだ。その場限りの楽しみでしかない。食卓は違う。気持ちをやり取りして得るものは、未来へと続く糧なのだ〉(「ままごと」より)

それぞれに葛藤する物語を読むうち、胸がじんわり温まってくる新食感短編集。著者は、テレビドラマやドキュメンタリーを手がけてきた脚本家。小説デビュー作『給食のおにいさん』シリーズ(幻冬舎文庫)が累計26万部と好調の、注目の書き手だ。本書が初の単行本となる。

(C・A)

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