Web版 有鄰

555平成30年3月10日発行

加納朋子と『カーテンコール!』 – 人と作品

様々な悩みを抱える若い人たちを言葉の力で勇気づけたい

加納朋子
加納朋子

閉校予定の女子大で補習合宿

ついに閉校が決まった萌木女学園。緑豊かな敷地ごと売却され、最後の卒業生を送り出す……はずが、予定外の卒業保留組が現われた。半年の猶予を与えられ、補習を受けることになった残念集団を描いた連作短編集である。

「2015年に『トオリヌケキンシ』が日本医療小説大賞の最終候補になり、新潮社さんから医療小説を依頼されました。専門知識は持ち合わせていませんので、広い範囲で医療を扱っていけたらと構想し、翌年の『小説新潮』9月号で『萌木の山の眠り姫』を書きました」

最初に書かれた短編は、単行本では2編目に収められている。「砂糖壺は空っぽ」「萌木の山の眠り姫」「永遠のピエタ」「鏡のジェミニ」「プリマドンナの休日」「ワンダフル・フラワーズ」の6編から成る連作短編集だ。ひどい寝坊で1限目の単位を壊滅的に落とした朝子、拒食症の茉莉子ら、さまざまな問題を抱える生徒が登場する。校内に軟禁状態になり、テレビやインターネット、面会は禁止、スマートフォンも取り上げられた彼女たちは、無事に卒業できるのか。

「さまざまな事情で卒業し損ねた生徒たちですので、いまの若い人が抱える悩みにはどんなものがあるだろうと書きたいテーマがいろいろ浮かび、担当編集者の意見も聞きながら構成を決めていきました。若い人が抱える問題は多様で、現代的な悩みも、昔からずっと続いているものもあります。身近な人に悩みを相談できず、ネットを介して犯罪に巻き込まれる暗い事件も起きています。助けて、と直接言える相手をなんとか探してほしいと、連作を書きながら考えていました」

2016~17年にかけて『小説新潮』に5編連作し、冒頭作「砂糖壺は空っぽ」は、アンソロジー刊行を目的に女性作家が集まった「アミの会(仮)」による、『惑-まどう-』に寄せた作品だ。現代的なテーマを扱い、単独でも読める1編である。

臨時講師として補習を担うのは、萌木女学園大学の“玉コンニャク”こと、角田大造理事長だ。3月で閉校のはずだった学園に、カーテンコールのように居残った生徒に向け、語りかける。

「人の悩みや問題は、簡単に解決できたり、すぐに元気になれるものではないですよね。それでも、気の持ちようで変わる部分はある。言葉が無力だと思いたくないですし、言葉にはやはり力がある。どんな言葉の力で、落ち込んでいる人を少しでも持ち上げることができるのか、理事長の場面は挑戦のつもりで書きました。自己嫌悪や劣等感から自由な人ってなかなかいないですよね。若い人に勇気を持ってもらいたい、問題や心を少しでも軽くできたらと思っていました」

幅広い読者層に向けた“日常の謎”

1966年生まれ。1992年『ななつのこ』で第3回鮎川哲也賞を受賞してデビュー。1995年『ガラスの麒麟』で、第48回日本推理作家協会賞(短編および連作短編集部門)受賞。2008年『レインレイン・ボウ』で、第1回京都水無月大賞を受賞。2012年には、自らの急性白血病の闘病記である『無菌病棟より愛をこめて』を刊行した。

「子供の頃から本が好きで、毎週木曜に図書館に連れていってもらい、借りられるだけ借り、期限までに読み終えて返すのを楽しみにしていました。小学校の卒業文集に作家になりたいと書いたのですが、社会人になってワープロを手に入れ、これで何か書けないかと思ったのが具体的な始まりでした」

ホームズ、ルパンとは子供の頃に出会い、謎が解けていく趣向が楽しくて、海外ミステリーをよく読んでいた。80年代後半にデビューした宮部みゆきさん、北村薫さんの作品に衝撃を受け、”日常の謎”のミステリーを書き始める。本書もミステリーの仕掛けが凝らされているが、中学生からミステリー愛好家まで広い読者層に向け、どの人にも面白く読めるように、微調整を重ねて書いている。

「読者からお手紙をいただくと、励まされて、もうちょっと頑張ろうという気持ちになります。広い範囲での医療を扱った今回、重くなりすぎないように作ったキャラクターが真実ちゃんと夏鈴ちゃんでした。自分の中に籠もっている人ばかりでは物語は広がっていかない。他者や外の世界に興味がある人がいないと、描写が難しいのです。登場するどの人も、どこかに実際にいるんだろうなと思ってもらえるといいですね」

(青木千恵)

『カーテンコール!』・表紙

カーテンコール!
加納朋子/新潮社/1,400円+税

『書名』や表紙画像は、日本出版販売 ( 株 ) の運営する「Honya Club.com」にリンクしております。
「Honya Club 有隣堂」での会員登録等につきましては、当社ではなく日本出版販売 ( 株 ) が管理しております。
ご利用の際は、Honya Club.com の【利用規約】や【ご利用ガイド】( ともに外部リンク・新しいウインドウで表示 ) を必ずご一読ください。
  • ※ 無断転用を禁じます。
  • ※ 画像の無断転用を禁じます。 画像の著作権は所蔵者・提供者あるいは撮影者にあります。
ページの先頭に戻る

Copyright © Yurindo All rights reserved.