恩田 陸
ランキングというものが、完全に消費者のモノを買う指標になって久しい気がする。人は売れているものを買う、というのが厳然たる事実になったのだ。そういう風潮に疑問を覚えつつも、やはりランキングは気になるし、特に本については、他人や気になるあの人が何を選んだのか知りたいと思うものである。
そんなわけで、これまでにいろいろなアンケートに答えてきたし、アンケートの結果にも注目してきた。ここでは、これまでに答えたアンケートの中から幾つか紹介してみたい。カッコ内は、アンケートの載った媒体である。それぞれのコメントは今回付けたもの。
(1998年『この文庫がすごい』宝島社)
この頃は、とにかくページターナーである本がこの世でいちばん偉いと思っていた。まだまだ若かったのだ。最近は、「面白くない」というのも「面白さ」の一種であると考えるようになったので、今同じことを聞かれたら、小説3本は入れ替わるかもしれない。
(1999年『EQ翻訳ミステリー大全特集』光文社)
なぜ7本というハンパな数なのかというのは当時も今も疑問に思うが、この7本は不動。もしかすると、今なら『レベッカ』を、直近でいちばん感心した『13・67』(陳 浩基/文藝春秋)に入れ替えるかも。
すべて早川書房クリスティー文庫
(2000年『ハヤカワミステリマガジン』早川書房)
クリスティーは後期のものが好きだ。初期の超有名作品は、トリックを一行で説明できるものが多く、ガイド本や友人に読む前にネタばらしをされてしまったので読む機会を逸してしまったというのもある。昔のミステリーのガイド本って、思いっきりネタばらしをしていたものが多かったけれど、あれはいったいどういうつもりだったんだろう?
今もう一度聞かれたら、『スリーピング・マーダー』を入れたい。
すべてハヤカワ文庫
(2001年『新SFハンドブック』早川書房)
こうしてみると、やはり私の好みはコアなSFというよりも、幻想小説寄りという気がする。この頃、まだコニー・ウイリスは『ドゥームズデイ・ブック』上・下(ハヤカワ文庫)も『航路』(ハヤカワ文庫)も出していなかったし、今と全然イメージが違っていた。
(2003年『図書』岩波書店)
これは説明が必要だろう。恐らく最初は「あなたが短編のアンソロジーを作るとしたら」というお題だったと思う。私は、いろいろな作家の短編を集めたアンソロジーというのは、読者側に技術が必要なので読書初心者にはハードルが高いというのが持論で、もし自分でアンソロジーを編むとしたら、長編でやってみたいと思い(こうなるとアンソロジーというより文学全集ですが)、このようなリストを作った次第である。
コンセプトは、ジャンル分け不能な小説で、強烈な世界が築きあげられているもの、なおかつエンターテインメント性に優れたもの、という基準で選んだ。
すべて早川書房
(2013年『ハヤカワミステリマガジンポケミス60周年記念特集』早川書房)
1800番台まで出ているポケット・ミステリから3冊選ぶのは無理だと最初からあきらめ、女性作家のサスペンスで文庫になっていないもの、なおかつそれしか出していない、一発屋に近い人という基準で面白かったものを選んだ。
(2010年『考える人』新潮社)
私の脳内では、石井好子も周防正行も、この本は紀行文学である。
(2017年「ブック・ツリー」)
これは本の紹介サイトで、テーマも自分で決めた。の右の書名は、上の本を読んで気に入ったら、下の本もお薦めです、という意味である。
(2018年「サンデー毎日」毎日新聞出版)
これがいちばん直近に受けたアンケートである。30年になろうとしている平成から3冊選ぶなんて、ものすごく殺生な企画であったが、「これが登場してそのあと世界が変わった」と思うものを選んだ。
元号が変わって、もうしばらく経ってから振り返った時、このリストがどうなっているのか、自分でも興味がある。
※掲載書籍には絶版・品切のものも含まれています。