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有鄰


平成15年2月10日  第423号  P3

 目次
P1 P2 P3 ○座談会 横浜みなとみらい21 (1) (2) (3)
P4 ○たましいのこと  早川義夫
P5 ○人と作品  山本一力と『深川黄表紙掛取り帖』        藤田昌司

 座談会

横浜みなとみらい21 (3)
—着工から20年—



都市づくりの構想—モールに沿って建物をつくる
 
篠崎 将来、どんな街づくりを考えておられるのですか。

高橋
横浜みなとみらい21の幹線道路
横浜みなとみらい21の幹線道路
(株) 横浜みなとみらい21提供
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みなとみらいの街づくりの特徴というと、いろいろな言い方ができますが、モールを中心に活気のある町並みをつくるということが一番重要なことです。

どういうことかと言うと、例えば東京の臨海副都心を見るとわかりますが、ホテルなど一つ一つの施設では横浜は太刀打ちきないような立派な施設ができています。ところが、あれは売れた土地につくっているだけで、あちこちに点在していて、街になっていません。

みなとみらいは街をつくろうということで、モールをつくって、その軸に沿って建物をつくっていく。そうすると街としてのにぎわいが出てくる。それは開発する側から言うと、にぎわっている所に建物を建てるのですから、投資もしやすいということがあります。

それからもう一つ、これは当時の市長がなかなか頑張られたなと思うのは、横浜美術館、マリタイム・ミュージアム、パシフィコ横浜といった公共的施設を先行的につくっていることです。文化とか、交流の施設ですね。最初から単なるオフィス街ではなくて複合的な街をつくろうとしていることが、二つ目の特徴です。

それからもう一つは、都市デザインに工夫を凝らして、歩行者空間を中心に、できるだけ美しい街、できるだけ魅力的な街をつくろうとしていることです。

その三つがみなとみらいを非常に特徴的な街にしているんです。そういうあたりに、みなとみらいの今日のにぎわいや美しさ、環境のよさ、そういったもののベースがあると思うんです。

篠崎 新港埠頭も経営の中に含まれるんですか。

高橋 はい。赤レンガ倉庫も年間300万人の目標でしたけれど、開館してから半年で400万ぐらいの人が来館されています。

 
  三つの軸を中心にポテンシャルの低いほうから開発
 
高橋
クイーンモール
クイーンモール
(株) 横浜みなとみらい21提供
今、みなとみらいには、アウトドアのモールであるグランモールと、建物の中の海に向かうクイーンモールとがありますが、これから横浜駅側に、海に向かうキングモールというのをつくろうとしています。その三つの軸を中心に、街をつくっていきます。

なぜ街づくりをクイーン軸から始めたかというと、いろんな事情がありますが、ポテンシャルは横浜駅側のほうがあるから、まず、ポテンシャルの低い桜木町側から開発を進めていくといった手順をとったのです。

現在は街づくりも進んで、いよいよ横浜駅側の開発の段階を迎えつつあります。

 
  民間の力が最大限発揮されたランドマークタワー
 
高橋 ランドマークタワーはできるのがもう一年遅かったら、不況が厳しくなって、あんな立派なものはつくれなかったかもしれません。本当にぎりぎりのタイミングだったと思います。

昨年完成した今の丸ビルよりも、はるかに高い品質ですし、規模も大きいんです。そのぐらいの心意気で三菱地所がつくった施設です。

民間のビルとしては、みなとみらいで最初のビルですから、すごく頑張ってくれたんです。時期もよかったということでしょうね。ランドマークタワーがその後のビルの基準となり、横浜銀行も三菱重工も、クイーンズスクエアも頑張ったビルをつくってくださった。

北沢 そういう意味ですごく質の高い街になりました。民間企業の力もうまく引き出せた。それはまた、横浜みなとみらい21という会社の役割だったかもしれません。

ここは明治20年代に横浜船渠を民間の人たちの力でつくったというのが出発点で、現在は、横浜みなとみらい21という会社が中心になって民間の力でつくられてきたし、これからも多分、民間の力が最大限発揮できるような街になるんじゃないでしょうか。だから、逆に面白くなる可能性が大いにある。

篠崎 そこがまた横浜らしいですね。上からの指示に従うだけではなくて、下から盛り上がるものすごいパワーがある。

渡壁 そうなんです。それが城のない町なんですよ。

北沢 自主自立の雰囲気というのがありますね。

明治の頃に、居留地の側もそうですが、日本人町のほうにも町会所を中心とした自治組織があって、自分たちで町を治める。

渡壁 城のない町というのは、こんなに民間の力がというか、お上からのものでない力に結びついていく。今、街づくりの話をお聞きして、本当に私は横浜の皆さんを尊敬しますね。


「文化の城」を築いて、市民の心のよりどころに
 
渡壁 私は瀬戸内海の横島という小さな島の生まれですが、母の実家は城のある広島県の福山です。

日本の大抵の都市には城があります。城は封建社会の名残を持っていますが、今の人たちには心のふるさとみたいなものになっています。

横浜にはいい意味での城というか、心のよりどころというものがない。じゃ何だろうと思ったときに、ある意味で、美術の城として横浜美術館がありますし、音楽の城として横浜みなとみらいホールがあります。そこを皆さんの心のよりどころにしてほしいなと。文化の城として築き上げられればいいなと思います。

オーストラリアのシドニーオリンピックのとき、人々が「シドニーってどんな所?」って言ったときに、「あの面白いオペラハウスがある所」と言うと、行ったことのない人でも「あっ、あれがある所」と世界中の人たちが思いを馳せたと思うんです。

だから、横浜ってどんな所と言うと、もちろんいろんな歴史がありますが、横浜みなとみらいホールという世界に誇るホールがある所、と言われるようなホールにしたい。この間来日したモスクワ生まれの指揮者ワレリー・ゲルギエフを始め、すでに世界中から集まってくれる音楽家、芸術家たちが、このホールはすばらしいと言ってくれます。

 
  都心を一体化させる一つの軸になるMM新線が来年完成
 
篠崎 みなとみらいは平成17年に基盤整備が完了する予定で、完了すると就業人口が19万人、居住人口が1万人になるそうですが、現在の進捗状況はどうなんですか。

高橋 事業的に言いますと道路や公園、港などの基盤は公共でつくり、それらの基盤を整えた後は、建物はできるだけ民間につくってもらおうという原則でやったんです。

基盤としては80数パーセント完了しています。そして平成17年にはほぼ終わります。建物は工事中のものを含めて47〜48パーセントできていますが、これを速いと言うか遅いと言うか非常に難しい。

計画を立てるときは、みなとみらい21ということで、一応2000年にはでき上がるという設定はしていますが、都市づくりというのは完成というのはなくて、繰り返し、繰り返し変わっていく。

その時代に合わせて少しずつ街が変わっていくのが都市づくりだと思うんです。いろいろご意見がありますが、私どもの会社の前社長だった高木文雄氏は、急ぐな、街づくりというのはゆっくり、21世紀の終わりにいい街になっていれば、それで十分だとおっしゃっています。田村明さんも、街づくりを急いでも、ろくなことはないとおっしゃっています。

そういう遅い、速いということから言っても、この不況の中で、今も7棟の工事が進んでいる。ですから、そこそこのペースで街づくりは進んでいると思っています。

1年後にはMM新線が通るわけですが、これは非常に象徴的で、みなとみらいの都市づくりの一番の課題である都心、横浜駅の部分、みなとみらいの部分、関内とを縦にくし刺しにする鉄道なんです。つまり、都心を一体化させる一つの軸になる鉄道です。これが通ると、また街づくりも新しい展開が見られるようになると期待しています。

 
  作曲したり絵を描くアーティストが住む創造的な町に
 
北沢 最後に、みなとみらいに期待することを。

僕は街づくりの基本としてまず最初に空間の質というのを考えます。さきほどのキング軸であるとか、ウォーターフロントに公園があったほうがいいとか、町並みはこうだとか、空間の質や美しさを求めていく。

もう一つは、時間ですね。歴史的なものを大切にしているというのもそうだし、僕は最近東京に勤めているので、横浜に帰ってくると、ホッとしますし、ゆったりとした時間を感じます。この時間をつくり出すのは結構、難しいんだと思うんです。

だから、例えばホールの隣に住んでいれば、十分音楽を聴いて、その後、一杯飲んでうちに帰っても十分堪能できる。そういう時間が欲しいですね。

もう一つは、人間。みなとみらいに来て、僕はいろんな人と会っているわけです。ホールができ、そこでコンサートがあって、友だちと会ったり、そういうコミュニケーションがどんどんできてくるといいなと思います。そこがまだ希薄なんで、もう一つ横浜も頑張らなきゃいけない。

それからもう一つ、コンサートを聴いたり、美術館で作品を見たりというところはいいんですが、それを生み出す人たちがみなとみらいには少ない。アーティストが住んで、作曲するとか、絵を描くとか。そういうスペースがないんです。そういう創造的な町に工夫ができないか。そこがみなとみらいの課題かなという気がしているんです。

渡壁 これからそれをつくろうと思っているんです。去年で四回目になりますが、ジルヴェスターコンサートというのを、大晦日にやっています。毎年31日の9時半から始めて、カウントダウンをして新年を迎えて、新年にちなんだ音楽を聴いたり、楽しいコンサートです。

これは本当にこだわりのかたまりでして、横浜、神奈川にゆかりのある音楽家たちだけが集まってやっているんです。声をかけて、百人からのオーケストラが完全にできます。コーラスの方を含めると200人の出演者になります。 世界中で活躍しているようなソリストたちが正月でたくさん戻ってくるし。それは、横浜の力だと思います。ほかの都市では絶対できないことだと思います。

篠崎 本日は、ありがとうございました。





 
わたかべ あきら
1936年東京生れ。
著書『楽屋に裏話(ドラマ)人にエピソ−ド』日本実業出版社 1,020円(5%税込)
 
たかはし まさひろ
1941年横浜生れ。
著書『横浜みなとみらい21』(株)みなとみらい21 2,625円(5%税込)
 
きたざわ たける
1953年長野県生れ。
著書『明日の都市づくり』慶応義塾大学出版会 2,940円(5%税込)
 


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