【Book】喜多嶋隆「夏物語(2024Remaster)」あとがき
あの夏の物語をもう一度。
有隣堂STORY STORY YOKOHAMA
名智理
「潮風キッチン」のあとがきや、その他対談とか、書評などにも何度か書いたけれど、喜多嶋隆さんの「夏物語」はぼくにとっての始まりの物語、原点だ。
中学生になり、初めて大人の小説を読んだその体験。心がざわめき立ち、目の前の扉が開かれて、なにかまぶしい新しい風景が見えてくるような、そんな感動だった。
あれから三十年とちょっと。人生って、なんて不思議な縁でつながっているのだろう。
八九年に角川文庫で発表された「夏物語」は、二〇二四年の夏に、喜多嶋隆さんご本人によって丹念に「リマスタリング」され、新しい潮風が吹き抜ける短編集に仕上がった。
当時のままでももちろん色褪せないけれど、読み比べてもらうとほんの少し、過ぎ去った時代との距離みたいなものも感じられるかもしれない。
なぜ復刊企画を立ち上げたかというと、個人的な思い入れもあるけれど、時代を超える魅力をもった小説を、ぜひ、今の人たちに紙の本として手に取ってもらいたい、といういち書店員の願いだ。
愛蔵版と呼ぶのにふさわしい出来になっていると信じている。
この企画を面白がって快く引き受けてくださった、喜多嶋隆さんと、許諾をしてくれたKADOKAWAの担当諸氏、そして、田畑書店の大槻さんに、ファン代表として心からお礼を申し上げます。
さあ、ページを開けばあの夏が鮮やかによみがえる。COME ALONG!!