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平成13年5月10日 第402号 P5 |
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目次 | |
P1 P2 P3 | ○座談会 海軍の町 横須賀 (1) (2) (3) |
P4 | ○明治天皇の肖像 横田洋一 |
P5 | ○人と作品 佐藤愛子と『血 脈』 藤田昌司 |
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人と作品 |
佐藤家一族の社会の規矩からハミ出した不羈奔放な人生を描く 佐藤愛子と『血 脈』 |
登場人物の破天荒な生き方 佐藤愛子さんの『血脈』全三巻(文藝春秋)は、昭和戦前『あゝ玉杯に花うけて』などで「少年倶楽部」 読者の血を沸かせた小説家佐藤紅緑(こうろく)、その長男で終戦直後、並木路子の「リンゴの唄」で廃墟の中の日本人 に明るい息吹きを吹き込んだ詩人のサトウハチローを中心に佐藤家一族の社会の規矩からハミ出した不覊(ふき)奔放な人生を描いた作品だ。
この作品の面白さの第一は何といっても登場人物の破天荒な生き方にある。津軽藩士の血を引く佐藤紅緑 は、新聞記者ののち劇作家(のちに小説家)に転じたが、そこで大阪の舞台女優三笠万里子に夢中になる。 万里子としては松井須磨子をしのぐ女優になることしか念頭にないので迷惑至極だが、紅緑は強引に万里子を “妻”と呼び同棲してしまう。当然家庭は崩壊、子供たちはみな問題行動に走り、警察沙汰を起こしたりする。 長男のハチローは父の文才を引き継ぎ、やがて詩人として頭角を現わすものの、その下の弟たちは皆“口舌の徒”で、まじめに働こうとせず落伍者となっていくのだ。家庭でトラブルが起きるたびに呼び出され、 その処理を押しつけられる詩人の福士幸次郎や、ハチローの弟分だった菊田一夫なども奇人変人のたぐい。 「特殊な人ばかり集まってきたようですね。常識的な人とは付き合わないんですから、常識を超越した、似たような人ばかり残ったんでしょう」 比較的まともな生涯を終えたのは、五歳で伯父の家に預けられ、フィリピンで戦死した三男の弥(わたる)ぐらい。次男の節(たかし)は不品行で、しばしば問題を起こす。旅先から「タカシシンダ」の電報が届くので家人が駆けつけると、屏風の陰で芸者と寝ていて、「すまん、カネ」といったありさま。四男久は節の嘘のために追い詰められて十九歳で女と心中。 作者は、いうまでもなく紅緑と女優万里子の間に生まれた次女で、紅緑の寵愛を一身に受けて育ったが、 不覊奔放な血は争えぬと見え、二度の結婚に失敗した。夫が残した莫大な借財を一人でかぶり、阿修羅のごとく生活と闘い、その日常を描いた『戦いすんで日が暮れて』で直木賞を受賞、作家としての地歩を築いたことはよく知られている。 矛盾と弱さを抱えて生きる人生の哀感を紡ぎ出す
この作品の注目すべき点は作者が、変人奇人ぞろいの登場人物の内面に入って、成熟した作家の目で、矛盾と弱さを抱えて生きる人生の哀感を紡ぎ出していることだ。作者自身も「愛子」として登場しているが、「私」ではない。「最初、私の目から見る手法で百五十枚書きましたが、それでは親族のことは書けないとわかり、捨てました」
(藤田昌司)
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