Web版 有鄰

558平成30年9月10日発行

人と遊ぶボードゲームの魅力 – 2面

小野卓也

ボードゲームに囲まれる執筆者

ボードゲームに囲まれる執筆者

いま、日本中で、ボードゲームを楽しむ大人たちがじわじわと増えているのをご存知だろうか。ボードゲームといえば、子どもの頃に遊んだ人生ゲームやモノポリーなどを思い浮かべる人が大半だろうが、そうした超有名どころのゲームのほかにも、近年、大人向きの盛り上がれる新作ゲームがどんどん発売され、静かな話題を呼んでいるのだ。

「そうは言っても所詮、子どもの遊び」なんて言う勿れ。大人だからこそ、深夜にテーブルを囲んでお酒を飲みながら、という粋な楽しみ方もできる。あるいは、休日の昼間にボードゲームカフェでプレイするというようなお洒落な楽しみ方も可能だ。説明なしにすぐ始められるものも多く、初対面同士であってもゲームを通じて会話が弾むので、場が早く打ち解けるという効果もある。その楽しさに病みつきになって、ボードゲームのために仲間を集めてゲームサークルをつくったり、仲間とボードゲームを創作する熱心な愛好者も少なくない。何を隠そう、私もそのような愛好者のひとりで、趣味が高じて「ボードゲームジャーナリスト」を名乗り、インターネットや雑誌などで世界中のボードゲーム情報を発信している。

デジタルゲーム全盛の今、どうしてボードゲームに「ハマる」大人が増えているのか。その魅力と、いま一押しの、面白すぎる新作ゲームを一挙にご紹介しよう。

増える愛好者

大人のボードゲーム愛好者はもう30年以上前から存在していたが、数が増えてきたのは、2011年、東日本大震災の影響で節電が叫ばれて、電気を使わないでみんなで楽しめるものとして、マスコミからも注目を浴びたあたりからだ。そのせいか20代と30代が多い。

愛好者に人気なのは、もっぱら海外輸入ボードゲームの日本語版である。現在、世界では、ボードゲーム大国であるドイツ、それにアメリカ、フランスを中心に、年間1千タイトルを超える新作が発売されている。毎日遊んでも遊びきれないほどだが、その中から日本に輸入されるのは約3分の1。その大半が、外箱・ルール・カードなども全て外国語から日本語に変更して製造される「日本語版」である。

こういった「日本語版」をはじめ、ボードゲームに関するあらゆるものが展示販売される「ゲームマーケット」というイベントが、年3回、東京ビッグサイトとインテックス大阪で開かれている。体験コーナーもあって、買う前に気になったものを遊んでみてもよい。次は11月24日(土)と25日(日)に東京ビッグサイトにて開催されるので、ご興味のある方はぜひ足を運んでみてほしい。前回は2日間で延べ2万人が参加したが、これは10年前の10倍以上。会場では、子ども連れやカップルの姿が多く見かけられ、ボードゲーム人気が一般に広がっていることをうかがわせるだけでなく、海外からの参加者も増えており、国際的にも注目されていることが分かる。

ボードゲームが開く世界

そんなにたくさんの新作が発売されていると聞いて驚く人は多いが、愛好者は昔からのロングセラーばかり遊んでいるわけではない。テーマは歴史、ファンタジー、SFから、鉄道、ビジネス、都市開発まで実に多岐にわたり、また内容も5分で終わる手軽なものから、何時間もかかる戦略性の高いものまでさまざまある。

さらにその年によってトレンドがあり、制作国のお国柄も出る。例えばドイツのボードゲームはロジカルで、ジレンマがあるのが特徴。アメリカのゲームは派手な効果でお互いに干渉し合い、各所にサプライズが仕込まれているものが多い。このようなバラエティの豊かさもボードゲームの魅力の1つ。自分の好みや、一緒に遊ぶメンバーなど、TPOに応じて、ぴったりのボードゲームが必ず見つかるはずだ。興味が湧いてきたら、インターネットなどで情報を集めて、メンバーに合ったボードゲームを探し出すのもまた楽しい。

多様性に加えて、モノとしての魅力にも溢れている。ボードゲームの箱は、CDや書籍のように凝ったイラストで装丁されていて、そこに心惹かれたという愛好者も多い。たくさんボードゲームがあってどれを買おうか迷ったら、「ジャケ買い」するのもアリだ。特に多くの日本人愛好者に評価されているのは、木製のコマである。環境先進国でもあるドイツではプラスチックに対する嫌悪感があり、ボードゲームで使うコマの多くは、木を削り着色して作られている。木目がうっすらと入った高級感やぬくもりは、心癒されるものがあり、コレクターになる愛好者も少なくない。

このようにしっかりしたデザインは、欧米でボードゲームが大人の趣味として認知されていることを表している。日本でも最近ようやく、夫婦や大人同士、あるいは子どもを誘って、あくまで自分たちの娯楽としてボードゲームを楽しむ愛好者が現れ始めたが、これは世界的な流れなのである。

おすすめのゲームはこれだ!

今、世界的に注目されている最新のボードゲームは『アズール』(ホビージャパン、税別5,600円)。ポルトガルの王様の命令で宮殿をカラフルなタイルで装飾するゲームで、ドイツでボードゲーム・オブ・ジ・イヤーに選ばれた。駆け引きの面白さだけでなく、手触りのよい美しいタイルが入っており、モノとしての魅力にも溢れている。

近年ブームとなっている謎解きゲームでは、『脱出:ザ・ゲーム』シリーズ(コザイク、税別各2,500円)や『アンロック』シリーズ(ホビージャパン、税別各4,500円)が人気。みんなで協力して知恵を出し合い、謎を解き明かしていく。二人だけで遊ぶならば、さまざまなかたちのタイルを組み合わせて並べる『パッチワーク』(ホビージャパン、税別3,000円)、パーティーで遊ぶならば、お題の空白部分に面白い言葉を入れて発表する『私の世界の見方』(テンデイズゲームズ、税別3,500円)あたりがお薦め。

ボードゲームはほとんどインターネット通販で手に入るが、できればボードゲーム専門店やボードゲームカフェで実物を見たり、店員さんに説明してもらったりしてから購入すれば間違いはない。専門店もカフェも、かつては東京、大阪、名古屋中心だったものが、今や全国でどんどん増えている。

遊ぶ人が見つからない?

ボードゲームの魅力とはすなわち人の魅力である。同じテーブルを囲んで一緒に遊ぶ人の表情や仕草、そこから湧き起こる会話や笑いは、ほかの趣味ではなかなか得難い醍醐味である。性別を問わず社会的なネットワークを生み出し、精神的ストレスの解消にもなり、ポジティブに毎日を送るための「つながり力」を育てるには、ボードゲームはうってつけの趣味だと思う。

だからボードゲームでは特に相手が大切だ。家族や友達を誘って、自宅で遊ぶのが一番お手軽だ。宅飲みやパーティーの折に、簡単なボードゲームを出すのもよいだろう。ドイツでは「ボードゲームの夕べ(シュピーレ・アーベント)」といって、平日の仕事上がりにボードゲームを遊ぶという習慣がある。フレックスタイムの普及や労働時間の短さがあってこそできることだが、日本でも決して不可能ではない。

そこまでディープにハマらなくとも、会社の休憩時間や旧友が集まった機会など、いろいろな場面で活用できるポテンシャルの高いボードゲーム。本稿をきっかけにして、新たにボードゲームを始める方が現れることを願ってやまない。

小野卓也(おの たくや)

1973年千葉県生まれ。ボードゲームジャーナリスト。曹洞宗洞松寺(山形県長井市)33代住職。著書に『ボードゲームワールド』スモール出版 1,900円+税ほか。

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