Web版 有鄰

418平成14年9月10日発行

有鄰らいぶらりい

家族力』 山本一力:著/文藝春秋:刊/1,143円+税

人間生活にとっての家族の役割が最近、再評価の機運にある。直木賞を受賞した山本一力の『あかね空』は、その一つのきっかけとなった作品だ。本書は著者が家族の力によって作家となるまでの浮沈の人生を振り返った“もう一つの『あかね空』”。

高知県生まれの著者は、家庭の事情で東京に出て、新聞店に住み込んで働きながら高校を出た。両親は離婚している。著者は今日まで2度離婚し、3度結婚している。最初の結婚では年齢・学歴を偽り大卒で25歳と詐称した。旅行会社に勤めていたが、無謀にも辞めてデザイン事務所を開いた。たちまち行き詰まり、妻に内緒で借金、ついに離婚となる。2度目の結婚でも、隠れて妻以外の女性とつき合い、子どもを一人授かりながら離婚。

3度目の妻、つまり現夫人の実家は銀座に店を構える酒屋だった。結婚に当たって、今度は、「嘘と隠しごとのない夫婦」をめざした。しかし、遺産相続によって受け継いだ財産は、事業の失敗によってすべてを失い、その上に2億円もの借金を背負う破目に陥る。小説を書いて借金を返済する――という途方もないことを考え、ついに直木賞を受賞、流行作家となった次第だが、その陰での妻の内助の功が感動的だ。

覚えておきたい美しい日本語
柴田 武:著/KADOKAWA:刊/1,200円+税

パソコン、ワープロの時代になって、国語力は低下している。「当着順に受け付けます」「女抱けの部屋も用意いたします」などという変換ミスも気づかないことがあるという。本書はそうした中で国語力を磨くためのトレーニングの本だ。

まず、漢字の出題がある。「カイシンの作」「コウトウシモンを受ける」などなど。漢字のための頭の体操もある。反対語をつくることだ。「本家」「本式」などの反対語はすぐ思いつくだろうが、「本葬」「本道」となると?(本葬の反対は密葬、または仮葬。本道の反対は間道、「わき道」「抜け道」「バイパス」)。

日本語は同じ字でも読み方が違い、微妙に意味が変わるから面倒だ。その一例として「工場」について<こうじょう>と<こうば>の違いを挙げる。このへんまでは漠然とわかるが、名画は「観賞」するものか「鑑賞」するものか、庭園は「観賞」か「鑑賞」かとまどう人が多いに違いない。

「器械」と「機械」の違いもむずかしい。江戸時代まではすべて「器械」で、明治になってmachineの訳語として機械が登場したのだそうだ。

オニギリのようにオが取れると全く別の食べ物になる例もある。自国語を「国語」といっているのは日本と韓国だけで、日本も遠からず「日本語」になるだろうという指摘も、なるほどとうなずかされる。

美女たちの日本史』 永井路子:著/中央公論新社:刊/1,500円+税

本書の帯の「男本位の歴史の見方に異議あり」という文だけ見ると、女権拡張プロパガンダのように受け取られるかもしれない。だが内容はさにあらず、著者が歴史小説を書くに当たって長い間調べてきた文献から導き出したエッセンスなのだ。

まず冒頭の「悲劇の中で毅然と生きた元正天皇」の章から、その感を強くする。元正天皇は著者が「美貌の女帝」で取り上げた西暦700年代の天皇だが、女帝といえば歴代天皇の中で例外的存在だと考えられがちなことは誤りだと指摘している。

日本の女帝第1号は592年に即位した推古天皇で、それから奈良朝最後の女帝称徳天皇まで170余年の間、女帝は8代(再度即位を除外すれば6人)で、飛鳥時代から奈良時代までは男帝と五分五分だというのだ。女帝というのはお祈りだけしていたのだという考えも誤りで、産業や外交面でもすばらしい成果を上げたと指摘。

このような永井史観の出発点となった「炎環」の北条政子をはじめ、応仁の乱のヒロイン日野富子、戦国動乱の時代、毛利家を元就と二人三脚で支えたその妻(『山霧』の主人公)、戦国の美女のお市の方(『流星』の主人公)など、愛着をこめてその実像が伝えられている。

生きかた上手』 日野原重明:著/ユーリーグ:刊/1,200円+税
人生百年私の工夫』 日野原重明:著/幻冬舎:刊/1,200円+税

日野原ブームである。ここに紹介する2点も、いずれもベストセラー。

『生き方上手』は100歳を超えてなお医師として患者に接している著者の、医療体験からつむぎ出されたアドバイスだ。「きりのない願望が、あなたをしあわせから遠ざけます」。人は自分の不幸には過敏で、幸福には鈍感なものだが、これではしあわせになれない。「老いとは衰弱することではなく、成熟することです」。著者は75歳になったら“新老人”だと提唱している。「人はよわいからこそ、寄り添って生きることができます」。小見出しの一つ一つが説得性に富む名言になっている。

『人生百年私の工夫』は、人生100年を想定して、60年はそのハーフタイムに過ぎないという視点からの、アドバイス。どこを読んでも同感させられるが、とくに「ストレスを楽しみ、活かすことで脳も若返る」というアドバイスは刺激的だ。ストレス学説生みの親、セリエ博士も「強い刺激は病気を引き起こすけれども、ストレスといわれる一つの刺激の中にも、それがあることのほうがかえってその人間が健やかに生きられるものがある」と言い、「ユースストレス」と呼んだそうだ。ストレスは生きるための糧と著者は指摘している。

(S・F)

※「有鄰」418号本紙では5ページに掲載されています。

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