Web版 有鄰

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有鄰

平成17年4月10日  第449号  P5

○座談会 P1   金沢文庫と称名寺 (1) (2) (3)
有賀祥隆/永村眞/高橋秀榮/鈴木良明/松信裕
○特集 P4   70歳のピースボート  佐江衆一
○人と作品 P5   中島たい子と『漢方小説』


 人と作品
中島たい子さん
30代独身女性のテーマを一人称の「私」で描く

中島たい子と漢方小説
   
  中島たい子さん

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負け犬の定義ぴったりの主人公
 
   酒井順子 著『負け犬の遠吠え』(講談社)のヒット以来、「負け犬」と呼ばれるようになってしまった「30代以上、未婚、子無し」の女性たち。 中島たい子さんの『漢方小説』のヒロインは、負け犬の定義にぴったりあてはまる女性である。

「私自身が、30代、未婚、子無しの当事者で、今現在の感覚を書き残しておきたいと思いました。 酒井さんのエッセイの『負け犬』は、高学歴でお金持ちですが、私は高学歴でもお金持ちでもなく、中途半端で精神的に揺れていたところが体調不良となって出てきていた。 この何ともいえない身体感覚は、小説でしか表せなかった。」

主人公「みのり」は、31歳。 元カレが結婚すると知った日から原因不明のふるえに襲われ、ついに救急車で運ばれる。 病院を転々とし、ある漢方診療所で若い医師「坂口先生」にときめいて、東洋医学へくら替えする。 周囲の女友達は、30を過ぎてみな独身。 それぞれに体調不良を抱えている。

「私たちの世代は、我慢するタイプが多いんですね。 我慢していることもわからないほど、がむしゃらに20代を過ごしてきて、30を過ぎて無理が体に出てきている。 女性の厄年が30代に2回あるように、女の30代は身体なくして語れない。」

1969年、東京生まれ。 多摩美術大学で映画製作、脚本を学び、96年、日本テレビシナリオ登竜門の大賞を受賞。 97年には城戸賞(映画シナリオ・コンクール)に準入選し、放送作家、脚本家として活躍してきた。

「ぜんそくの持病があって子供時代は家で本ばかり読んでいました。 文字というものの中に、すごい世界が広がっているのが楽しかった。 小説は、勉強してからでないと書けないと思い込んでいたんですが、30代独身女性のテーマは、今すぐ、『私』という1人称で小説で書かなくちゃと思った。 すると、意外にスムースに筆が進みました。」
 

 
体調不良とのつきあい方をどう見つけるか
 
   一昨年の秋から昨年3月までかけて、初の小説を原稿用紙186枚で仕上げ、すばる文学賞に応募、昨秋、受賞を果たした。 主人公は、「31歳、独身の私」。 漢方医に惹かれるが、大恋愛になることはない。

「30代の独身女がどういう状況にあるか、体調不良とのつきあい方をどう見つけるか……がテーマだったので、恋愛ものにはならなかった。 かっこいい先生をみて元気になるくらいが、私の等身大ですね。 仕事で自己実現を目指していると、男性とも純粋に仕事の相手としてつきあい、性的なものは後回し。 仕事モードを恋愛モードに切り替えられない不器用な人は多く、仕事を頑張って、気づいたらほとんどの男性が結婚していた……というケースが、"負け犬"増殖の理由だと思う。」

1月に選考された芥川賞の候補になり、「練達の筆。 健全な小説で、私自身が心癒された。」(宮本輝さん)と評価された。 やはり1月に単行本が出て、「この漢方診療所はどこか教えて。」と、男性読者から問い合わせがきた。 男女の別なく、体調不良を抱えた人は少なくない。 小説の中で<みんな、具合が悪い中をだましだましどうにかやっているんだ。 自分だけが不幸に見舞われたかのように騒いでいたのが急に恥ずかしくなった>とみのりが思うのは、作者の率直な感慨である。

「女友達と話すと、みんな哲学的なところまで踏み込んでいろいろなことを考えていて、教えられることは多いですね。 友達の話に耳を傾けるのは、非常に重要だと思います。 既婚者でも我慢や無理をしている人はいる。 私自身、大事なものは何かをずっと探していて、『自分を素直に自覚し、成長させていく女になる』ことが、本当のゴールインだと思います。 勝ちだ負けだと、日本人って、人と人を比べる癖から脱け出せないんですね。 この癖をやめたらずいぶん楽になると思う。」

172センチの華奢な長身で、少女の雰囲気がある。

「昔は30代は大人だと思っていたけど、今は大人になったっていつ思うのかな、という感じです。 小説はまだビギナーで、どう自分のものにするか、時間がかかると思います。 文字による表現をどこまでできるか、自分の背を伸ばしてくれる目標があればそれを目指したくて、そうすると、私のゴールインはやっぱり結婚ではないですね。 小説を書いてみたら、脚本に対する見方も変わってきた。 脚本と小説。 両方で学ぶことを両方に生かしたい。」


漢方小説』 中島たい子 著
集英社 1,260円
(5%税込)

(青木千恵)




  有鄰らいぶらりい
 


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新堂冬樹 著
僕の行く道』 双葉社 1,365円(5%税込)
 
 
 
『僕の行く道』−双葉社刊−
 
僕の行く道
−双葉社刊−
 
親子の愛情を描いて、これほどしみじみさせる小説は、近ごろ珍しい。 主人公は小学三年生の大志。 一人息子。 母は、ファッションデザイナーとして修業のため、大志が幼少のころからパリへ行っている。 毎週土曜日には、その母から必ず便りが届くのが楽しみだ。 父は仕事で毎日出かけており、大志の孤独を慰めるのは、拾ってきた子猫のミュウだ。

ところがある日、父の留守中に偶然発見した手紙と写真によって、パリへ行っているはずの母が瀬戸内海に囲まれた小豆島にいることを知る。 父はもちろん、大志の食事などの面倒を見ている母の妹もなぜか大志にはそのことは秘密にしてきたのだった。 母に会いに行きたい——。 大志は近所に住む仲良しの上級生・博士に相談する。 折りしも博士は夏休みにボーイスカウトで河口湖にキャンプに行くという。 そのキャンプに同行させてもらうということで、大志は父の了承を得た。

貯金箱を割ったりして旅費を工面し、ようやく片道分だけの費用を捻出した大志は、一人で小豆島へ向かう。 試行錯誤、悪い大人にだまされそうになったりもしながら、多くの人の善意に助けられて小豆島へ着くが、それから先も四苦八苦。 しかも再会できた母は……。
 

Yoshi 著
もっと、生きたい… スターツ出版 1,200円(5%税込)
 
 

電車男』(新潮社)というベストセラーには驚かされたが、『もっと、生きたい…』にも、それに劣らないほど、驚かされた。 従来の分類でいえばホラー小説だが、最近では“ケータイ小説”と呼ぶらしい。 携帯電話を媒介して、次々、奇怪な事件が発生するというストーリーだ。

夜中の2時頃、梨花の携帯電話に1通のメールが入る。 件名に「down」とだけある。 送り先のアドレスは知らない。 開いてみると「足の指」とだけある。 梨花は彼氏がエッチのとき、梨花の足の指をなめたことを思い出し、そのまま眠りについた。 翌朝寝覚めたとき、梨花はギャーッ。 足の指が10本、切り落とされているのだ。 これがほんの始まりだった。

妹の真由美はすぐ警察に通報する。 話を聞いた本田警部は、携帯のシェア、ナンバーワンの企業を訪ね、専門家の神野に協力を求める。 手がかりはメールだけ。 神野は驚いた。 被害者の梨花はかつての恋人だったのだ。

これをきっかけに、次々に猟奇的事件が起きる。 メールで「down」の件名で送信された相手は、鼻をもぎとられ、耳をとられ、両眼をえぐりとられる……。 送信元はイエスを名のり、また、「ノアの箱舟」と称した。 犯人は何の目的で……?
 

門昌央と人生の達人研究会 編
ワルの知恵本』 河出書房新社 500円 (5%税込)
 
 

<「言い訳はしません」というのは言い訳人間><「私はウソはつかない」と言うのはウソつき人間><「お世辞が言えないタチでして」というのはゴマスリ人間>など29項目(小見出し)が並ぶのは、第1章「ヤバイ奴を見ぬくワルの知恵」。

以下第8章「人間の本性をえぐるワルの知恵」まで、約180項目。 第2章「初対面の相手をたちまちなびかせてしまう会話術」を含め、ここらは「ワルの知恵」というより副題の「マジメすぎるあなたに贈る世渡りの極意」の方が当たっているようだ。

3章<一撃で陥落させる贈賄のノウハウ>とか4章<無理を承知で通したければ大きな声で言え>、5章<女性を落とすなら最初にひどい男と思わせよ>になると、なるほど、ワルの知恵と思わせる。

「世間のウソを見破る」という7章には<「若いうちに何でもチャレンジせよ」で失敗した人は多い><「人とは本音でつき合え」だけで人間関係は成り立たない><「裏表がある性格はよくない」は世間知らずの言葉>など、建前を裏返した人生訓が並ぶ。

故・山本夏彦氏の言葉「皆がこぞっていうことならうろん」を思い出させる本である。
 

持田鋼一郎 著
世界が認めた和食の知恵』 (新潮新書) 新潮社 714円(5%税込)
 
 

サブタイトルに「マクロビオティック物語」とあるが、マクロビオティックというのは、桜沢如一[ゆきかず]という栄養学者による造語で、最近、アメリカはじめ世界で注目されているという。

近年、日本人の食糧事情はいちじるしく好転し、それにともなって動物性タンパク源の摂取など、栄養も改善されているはずだが、その一方で肥満、高血圧症、ガン、エイズなどの難病が増加の一途にあるのは日常の食事が悪いからで、日本古来の玄米、野菜食こそ、健康の根源だというのだから、これは刺激的だ。

「マクロビオティック」というのは、明治時代の陸軍の薬剤監石塚左玄[さげん]の提唱によるもの——人間の長寿と健康には、穀物と野菜を主体とした「食養」「正食」こそ最高で、医食同源に通じる思想を継承発展させたものだ。

またこれは、人間は自分の生まれ育った土地でとれた食材をとることがもっとも健康によいとする"身土不二[しんどふじ]"、一つの食材の全部を食べる"一物全体[いちぶつぜんたい]"の思想とも重なるという。 これらは、いかがわしい民間療法として排斥されたこともあるが、最近では現代病の治療法として世界的に注目されているという。 本書は、独自の食事療法でマクロビオティックの発展の歴史を担った桜沢如一ら3人の苦闘の歴史をたどっている。
 

(K・F)

(敬称略)


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