Web版 有鄰

496平成21年3月10日発行

西田俊也と『復活の恋人』 – 人と作品

事故で20年間眠り続けた34歳の恋の行方を描く

西田俊也氏
西田俊也

初デートの前日、ひき逃げ事故に遭う

中学3年の青木タモツは、憧れの同級生、小夜子との初デートを明日に控えて、ひき逃げ事故に遭う。眠り続けて目覚めると、時空は20年後の2005年。タモツは34歳になっていた――。

「34、5歳は、“まだ若い”と“もう若くない”の分岐点にある年齢です。10年後の24歳ではまだ十分に若いから、まずあり得ないことですが、20年後に目覚める設定にしました。過去の恋にタイムスリップする『love history』と逆で、過去の自分が現在にやってくる話です。人物に愛すべき点を持たせるなどの救いや甘さを極力排し、人間の暗部にまで踏み込んで、かなりリアリスティックに、いろいろな要素を書き込みました」

タモツは、20年後の小夜子と、病院でばったり再会する。美しい大人の女性になっていた小夜子は、タモツの親友・笠井と結婚し、3年前に離婚していた。“子供のままの心を持てあましながら、若さを失っていく”と精神的に不安定になった小夜子は、療養のために姿を消す。タモツは私立高に入り、異質な存在としていじめを受ける。そんな中、休学で2年進級が遅れ、やはり異質だと疎外されている18歳の同級生、鳥野イチコと仲良くなる。

「僕は10代の頃、大人になった自分を、映画の仕事に就けてるかな、スーツを着てネクタイを締めた、がっしりと動じないお父さんになっているのかなと思い描いていましたが、そうなれてない。相変わらず奈良にいて、当時あったものに囲まれて、時ばかりが過ぎている。昔のものを引きずり、今の年齢にしっくり来ないでいる気持ちを物語に置き換えてみる。それがこの小説の原点です。10代の頃というのは、いくつになっても特別な感じで自分の中に残っている。それが何なのかは曖昧だけれど、忘れてしまうのは嫌だと思う」

舞台は、奈良である。20年を経てタモツと小夜子はようやくデートをするが、この恋はどうなるのだろうか?タモツの父親は文化財保護の仕事に打ち込んでいたが、タモツが眠っている間に体を悪くした。いびつで欠点だらけの心を抱えながら、タモツは34歳の大人として、父の介護やアルバイトをし、小夜子を見舞いにハワイへも旅する。時が流れ、あらゆることが変わっていく中で、〈ぼくは明日のことをたくさん思い描いて、遠ざかるものへの淋しさをなんとか忘れようとした〉と、向き合っていく。

「今の人は、一度手に入れた物差しでずっと生きていけないですよね。時の流れに応じて、どこかで新しい物差しが必要になってくる。それをどこで手に入れるか、前のをどこで捨てられるか。登場人物たちは、若い頃の物差しを精神的な支柱にできなくて、揺れている。僕はずっと、どこかで大人になるんだろう、変貌する時期があるんだろうと思っていましたが、実は大人には“なる”のではなく、誰もが元々、大人の部分というのを備えて生きているんだろうな、という見方になりつつあります。子供の中にも大人の部分があり、大人の中にも子供の部分がある。一人ひとりに、大人と子供が常に共存している。四季がくっきりある土地性もあるかと思いますが、生きながら死に、気持ち新たに復活する、めぐりめぐって自分なりのスタンスや尺度を獲得していく感性が、日本人にはある気がします」

児童文学、作詞、映画脚本など多ジャンルで活躍

1960年、奈良県生まれ。少女小説、児童文学、漫画原作、作詞、映画脚本など多ジャンルで活躍。02年、前年刊行の『もう起きちゃいかがと、わたしは歌う』が話題になる。2000年刊『love history』は、15万部を超えるロングセラーになっている。ほかの著書に『やんぐとれいん』、『世界でいちばん淋しい遊園地』、『チチ、カエル。』などがあり、今年中に漫才師を主人公にした長編を発表する予定。

「映画監督になりたくて、10代の頃は8ミリ映画を撮っていました。人のものを欲しがる癖がある子供で、村上龍さんがデビューしたときは、小説を書いたら映画監督だってできるんだなと、鮮烈な印象を受け、憧れました。一言で言えば簡単に済むようなことを、登場人物や描写を考えて多大な時間をかけて書くなんて、愚かな作業かもしれない。でも、読者の感想を読み、自分が書いたもので誰かが救われた気分になれたのなら、良かったな、自分が世の中に生まれてきて為した、数少ない良きことのひとつなんだろうな、と嬉しくなる」

(青木千恵)

『復活の恋人』・表紙

復活の恋人
西田俊也/幻冬舎/1,800円+税

※「有鄰」496号本紙では5ページに掲載されています。

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