Web版 有鄰

462平成18年5月10日発行

誉田哲也と『ストロベリーナイト』 – 人と作品

女性警部補・姫川玲子が活躍する警察小説

誉田哲也
誉田哲也

殺人鬼『エフ』の謎に接近

今野敏著『隠蔽捜査』(新潮社)、佐々木譲著『制服捜査』(同)など、面白い警察小説が続々登場している。

警察小説の書き手で、若手でひときわ注目されているのが、誉田哲也さんだ。昨年暮れから今年にかけ、二人の女性巡査の物語『ジウ』(中央公論新社、夏刊行のⅢ巻で完結予定)、女性警部補・姫川玲子の物語『ストロベリーナイト』(光文社)を刊行し、好調に売れている。

『ストロベリーナイト』の主人公は、警視庁捜査一課に所属する29歳の主任警部補、姫川玲子。頭がよく、容姿を頼みに捜査することもあるやり手だが、内面の弱さも抱えている。葛飾区でみつかった異様な死体の捜査を始めた姫川は、殺人鬼『エフ』の謎に接近していく。

「男社会で必死に仕事をする女性刑事は、デキる男の刑事よりも格好良いと思う。育てていきたいキャラクターで、まず長編の単行本で、姫川を世に出したかった。『ストロベリーナイト』というタイトルがまず浮かび、それは何だ、殺人ショーだと、連想していった。最も興味があったのは惨い死体が続出するとんでもない事件に対して、ヒロインがどう関わり、精神的に乗り越えていくか。人の動きを書きたかった。」

姫川の周囲には、監察医の國奥、お調子者の井岡、不器用で実直な菊田ら、警察に勤める面々がいる。彼らと姫川の間に、微妙に艶っぽい“熱”がある。

「警察といえど個人の集まりですよね。吸血鬼小説を書いたとき、死体を扱う警察官の仕事に興味が出て、ノンフィクションを読み始めました。苦労話もあり、ルールが細分化された極めて厳格な組織で働いている人の姿がみえてきた。それで、警察小説を書きたくなりました。個人個人が、たまたま警察という組織に所属していて、個人の上に警察官という冠がついている状況を書きたい。一人ひとりの個性がバラバラであることの面白さを、会社組織に勤めている人が読んで、楽しんで共感してもらえるかと。」

姫川のシリーズは、続いていく計画。『小説宝石』では短編を発表している。すでに書かれた物語の中で浮かび上がったものの、未解決のままの問題は数多い。

「最初に國奥のキャラクターが浮かび、國奥が死体を検分している所に女が歩いてきて、『よお、姫』と呼びかけるイメージがあった。姫川誕生の端緒です。浮かんでくるイメージから物語を作っていくうちに、キャラクターが自然に動き出す。そうなったら、僕は、僕が作った小説世界の箱庭をよくみて、そこで懸命に生きている姫川や菊田の動きを追って書いていきます。犯罪を解決していく彼らの動きを書きながら、人間が生きていくうえで大切なことは何か、それを少しでも示せればいい。人とは、世の中とはこうであるべきだと押しつけるより、人の動きをみて書いているうちに人の本質が浮かび上がってくる、そういう感じがいいですね。」

重いテーマを扱っても面白い小説を

昭和44年東京生まれ。会社員をしながらロックバンドを組んでいた。30歳になる頃、ネットで格闘技のリポートを担当し、文章を書く面白さに目覚めた。

「映像でリアルタイムに流したら1、2秒で終わってしまう最高の場面を、文章だったらそこだけ切り取って修飾したり、どんな右フックだったか解説したりできますよね。最高の場面について、読者の頭の中でイメージできるように脚色して書いたリポートに面白かったという反応があった。それで調子に乗りました。反応って大事。」

「作家になる。」と宣言して、バンドを解散した。2002年、『ダークサイド・エンジェル紅鈴 妖の華』でムー伝奇ノベル大賞優秀賞、’03年、『アクセス』でホラーサスペンス大賞特別賞。時代小説『吉原暗黒譚 狐面慕情』、青春小説『疾風ガール』など、警察小説に限らない娯楽作を発表している。

「小説でも、面白かったといってもらうのが一番嬉しい。僕は、どこに向かって書き、物語の最後に何がみえるのか自分の中では決めて書いています。ただ、ミステリーの場合、最後に何がみえるかはたいがいネタばれになるので、語れない。テーマを語れない、なんてつまらないヤツだ、ということになるんですが…。重いテーマを扱っても、面白い小説であることを目指しています。警察小説を軸に、エンターテインメントにこだわって書いていくつもりです。」

(青木千恵)

『ストロベリーナイト』・表紙

ストロベリーナイト
誉田哲也/光文社/1,600円+税

※「有鄰」462号本紙では5ページに掲載されています。

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