Web版 有鄰

462平成18年5月10日発行

有鄰らいぶらりい

頭がいい人、悪い人の〈口ぐせ〉
樋口裕一:著/PHP新書:刊/714円+税

ミリオンセラーになった『頭がいい人、悪い人の話し方』、『頭がいい人、悪い人の〈言い訳〉術』に続く第三弾。

書籍につづいてテレビも日本語ブームだが、おかしな言葉遣いは依然多い。

この本の第二章「バカをさらけ出してしまう口ぐせ」に出てくる「超カワイー」「えー、ウッソー」「マジかよ」「マジマジ」などは、クイズ番組で常識以前の問題にも答えられず、司会者から「バカ・タレント」と連呼されてもケラケラ笑っているジャリの言葉だから、もはや気にもならない。

しかし、スポーツ番組などで、解説者が「わたし(自分)的には」などと言っているのは耳障りである。「値段的には」「容貌的には」など何にでも「的」をつける流れだろうが、いい年をした大人だけにみっともない。

女性に多い「私って○○じゃないですか」「それってビミョー」などもおかしな言葉だ。前者には「君のことなど知らないよ。」と言いたくなるし、後者は世の中に微妙な事柄は多いのだから、何も言ってないのに等しい。

ありふれたサラリーマンのグチ「うちの会社は冷たい」とか「上司はバカばっかり。」などは、会社に甘えている依存意識の裏返しと、自分もかつて「グチの樋口」と呼ばれたという著者は言っている。

テレビの罠 ― コイズミ現象を読みとく
香山リカ:著/ちくま新書:刊/680円+税

昨年秋の総選挙で自民党が圧勝したことはまだ記憶に新しい。“小泉劇場”“刺客”ということばも流行語になった。だが、小泉自民党の圧勝はだれも予想できなかったことだ。その背景には何があったのだろう。著者は、これまでの関係者やマスコミの発言を分析しながら、そこにテレビの影響の大きさがあったと指摘する。

自民圧勝が“小泉劇場”のマインドコントロール効果だったとするならば、それを仕掛けたのはだれだったのか。そこにプロデューサーや演出家はいたのか。それはテレビという機能がもつ効果ではなかったのか、という指摘だ。

この選挙結果のもう一つの特徴は、従来、自民は都会で弱く、地方で強いといわれていたのが逆転した点だ。そこにもテレビの影響があった。現代人はメディアによってつくられたゲームに興じ、マスコミもそのゲームに参加できずに孤立することを恐れ、こぞって“小泉劇場”に参加した。

いうまでもなく、その背後には「視聴者」の存在がある。テレビは視聴者の心をつかむことだけに専念しているわけだが、その結果、視聴者を大きな権力としてしまったのである。現代社会の病巣を心理学的に分析して考えさせられることが大きい。

壊れる男たち ― セクハラはなぜ繰り返されるのか
金子雅臣:著/岩波新書:刊/820円+税

セクハラ(セクシュアル・ハラスメント)ということばが日本に紹介されてから15年以上たつそうだが、東京都で労働問題のかたわら、セクハラ問題の相談を受けている著者によると、この間、セクハラ事件は激増しているという。一つには、被害者女性が泣き寝入りしなくなったためもあるだろうが、それだけではなく、事実、トラブルが増えているという。なぜか。男が壊れてきたのではないか、と疑問がわき上がる。

本書の主要部分は、相談に現われたトラブルに見るセクハラのさまざまな実態だが、共通しているのは、告発されてセクハラの加害者となった男性たちが、それほど悪いことをやっているという意識をもっていないことだ。軽い気持ちでとか、冗談のつもり、とか、好きだから、など犯罪意識がまったくない。とくに問題なのは、職場などの上司が権力をちらつかせて迫ることだが、それですら罪の意識はあきれるほど少ない。

〈恋人同士や夫婦のような対等で平等な関係のものではなく、男がパワーを背景に、自分の意のまま、自分の思い描く性のあり方を求めているような気がするのである。〉

背景にあるのはジェンダーだが、男は今こそ、この課題に取り組まなければならない時に来たようだ。

火喰鳥』 杉本章子:著/文藝春秋:刊/1,500円+税

『火喰鳥』・表紙
『火喰鳥』
文藝春秋:刊

連作時代小説で、五話が収録されている。時代は江戸時代で、猿若町に三座の芝居小屋がにぎわいを見せていたころ。主人公の信太郎はしにせの呉服問屋の総領息子だが、道楽者で、吉原の引手茶屋の若い女あるじ「おぬい」とねんごろの仲になり、家を勘当され、三座の一つ河原崎座の帳簿つけとして働いている。

河原崎座の上役は大札という役職で、いわば会計課長のようなもの。信太郎とわりない仲の引手茶屋のおぬいのおじに当たる。

ある日、信太郎の父が急死し、信太郎は勘当が解かれて実家に戻り、呉服屋を継ぐことになる。かねて信太郎とおぬいに理解を示してくれていた亡父の遺言で、おぬいもやがて妻としてめとられることになるのだが、周囲はなかなかそれを許さない。

そんな矢先、河原崎座が火事に見舞われるのだ。この火事で大札は焼死し、大札を救い出そうと飛び込んでいった信太郎も重傷を負って、一命はとりとめたものの失明してしまう。こうして、この主人公の有為転変が、連作として展開されるのである。

ストーリーも変化に富んで面白いが、何よりも人情や風俗などのディテイルが素晴らしく、火災現場の描写には圧倒的な迫力がある。

(K・F)

※「有鄰」462号本紙では5ページに掲載されています。

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