Web版 有鄰

449平成17年4月10日発行

有鄰らいぶらりい

僕の行く道』 新堂冬樹:著/双葉社:刊/1,300円+税

『僕の行く道』・表紙

『僕の行く道』
双葉社:刊

親子の愛情を描いて、これほどしみじみさせる小説は、近ごろ珍しい。主人公は小学3年生の大志。1人息子。母は、ファッションデザイナーとして修業のため、大志が幼少のころからパリへ行っている。毎週土曜日には、その母から必ず便りが届くのが楽しみだ。父は仕事で毎日出かけており、大志の孤独を慰めるのは、拾ってきた子猫のミュウだ。

ところがある日、父の留守中に偶然発見した手紙と写真によって、パリへ行っているはずの母が瀬戸内海に囲まれた小豆島にいることを知る。父はもちろん、大志の食事などの面倒を見ている母の妹もなぜか大志にはそのことは秘密にしてきたのだった。母に会いに行きたい――。大志は近所に住む仲良しの上級生・博士に相談する。折りしも博士は夏休みにボーイスカウトで河口湖にキャンプに行くという。そのキャンプに同行させてもらうということで、大志は父の了承を得た。

貯金箱を割ったりして旅費を工面し、ようやく片道分だけの費用を捻出した大志は、1人で小豆島へ向かう。試行錯誤、悪い大人にだまされそうになったりもしながら、多くの人の善意に助けられて小豆島へ着くが、それから先も四苦八苦。しかも再会できた母は……。

もっと、生きたい…』 Yoshi:著/スターツ出版:刊/1,143円+税

『電車男』(新潮社)というベストセラーには驚かされたが、『もっと、生きたい…』にも、それに劣らないほど、驚かされた。従来の分類でいえばホラー小説だが、最近では“ケータイ小説”と呼ぶらしい。携帯電話を媒介して、次々、奇怪な事件が発生するというストーリーだ。

夜中の2時頃、梨花の携帯電話に1通のメールが入る。件名に「down」とだけある。送り先のアドレスは知らない。開いてみると「足の指」とだけある。梨花は彼氏がエッチのとき、梨花の足の指をなめたことを思い出し、そのまま眠りについた。翌朝寝覚めたとき、梨花はギャーッ。足の指が10本、切り落とされているのだ。これがほんの始まりだった。

妹の真由美はすぐ警察に通報する。話を聞いた本田警部は、携帯のシェア、ナンバーワンの企業を訪ね、専門家の神野に協力を求める。手がかりはメールだけ。神野は驚いた。被害者の梨花はかつての恋人だったのだ。

これをきっかけに、次々に猟奇的事件が起きる。メールで「down」の件名で送信された相手は、鼻をもぎとられ、耳をとられ、両眼をえぐりとられる……。送信元はイエスを名のり、また、「ノアの箱舟」と称した。犯人は何の目的で……?

ワルの知恵本
門昌央と人生の達人研究会:編・著/河出書房新社:刊/476円+税

<「言い訳はしません」というのは言い訳人間><「私はウソはつかない」と言うのはウソつき人間><「お世辞が言えないタチでして」というのはゴマスリ人間>など29項目(小見出し)が並ぶのは、第1章「ヤバイ奴を見ぬくワルの知恵」。

以下第8章「人間の本性をえぐるワルの知恵」まで、約180項目。第2章「初対面の相手をたちまちなびかせてしまう会話術」を含め、ここらは「ワルの知恵」というより副題の「マジメすぎるあなたに贈る世渡りの極意」の方が当たっているようだ。

3章<一撃で陥落させる贈賄のノウハウ>とか4章<無理を承知で通したければ大きな声で言え>、5章<女性を落とすなら最初にひどい男と思わせよ>になると、なるほど、ワルの知恵と思わせる。

「世間のウソを見破る」という7章には<「若いうちに何でもチャレンジせよ」で失敗した人は多い><「人とは本音でつき合え」だけで人間関係は成り立たない><「裏表がある性格はよくない」は世間知らずの言葉>など、建前を裏返した人生訓が並ぶ。

故・山本夏彦氏の言葉「皆がこぞっていうことならうろん」を思い出させる本である。

世界が認めた和食の知恵』 持田鋼一郎:著/新潮新書:刊/680円+税

サブタイトルに「マクロビオティック物語」とあるが、マクロビオティックというのは、桜沢如一という栄養学者による造語で、最近、アメリカはじめ世界で注目されているという。

近年、日本人の食糧事情はいちじるしく好転し、それにともなって動物性タンパク源の摂取など、栄養も改善されているはずだが、その一方で肥満、高血圧症、ガン、エイズなどの難病が増加の一途にあるのは日常の食事が悪いからで、日本古来の玄米、野菜食こそ、健康の根源だというのだから、これは刺激的だ。

「マクロビオティック」というのは、明治時代の陸軍の薬剤監石塚左玄の提唱によるもの――人間の長寿と健康には、穀物と野菜を主体とした「食養」「正食」こそ最高で、医食同源に通じる思想を継承発展させたものだ。

またこれは、人間は自分の生まれ育った土地でとれた食材をとることがもっとも健康によいとする“身土不二”、1つの食材の全部を食べる“一物全体”の思想とも重なるという。これらは、いかがわしい民間療法として排斥されたこともあるが、最近では現代病の治療法として世界的に注目されているという。本書は、独自の食事療法でマクロビオティックの発展の歴史を担った桜沢如一ら3人の苦闘の歴史をたどっている。

(K・F)

※「有鄰」449号本紙では5ページに掲載されています。

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