Web版 有鄰

448平成17年3月10日発行

有鄰らいぶらりい

問題な日本語』 北原保雄:編/大修館書店:刊/800円+税

おかしな日本語が流行している一方で、日本語の本はよく出て、よく売れる。「きもい」だの「うざい」だの、それこそ“うざい”言葉を喋っていた若者が社会に出てあわてて勉強するのだろうか。

しかし、他に何も注文してないのに「コーヒーのほう、お持ちしました」などの“ほうほう族”は、マニュアルに従っているともいうから、教える大人も問題なのだろう。

「こちら和風セットになります」も、おかしな言い方でいまでも和風セットなのに、さらに和風に化けるのか、と思ってしまう。「私的[わたしてき]」など「的」の乱用なども含め、よく婉曲表現という言葉が使われるが、「コーヒーです(ございます)」と言うと、失礼になると誰が思うのか。

失礼といえば、「私って…じゃあないですか」などのほうがよほど押し付けがましく無礼で、お前のことなど知らんわい、と言いたくなる。

『明鏡国語辞典』の編者たちが作ったこの本、こうした言葉を槍玉にあげる一方で、言葉は変化することを前提に認めるべきは認める、という比較的、寛容な立場を取った本である。たとえば、「猫に餌をあげる」などは「やる」の謙譲語から、たんなる美化語になっているので、認められるという。ちなみに表題の「問題な」は、もちろん「問題の」間違い表現である。

グランド・フィナーレ』 阿部和重:著/講談社:刊/1,400円+税

『グランド・フィナーレ』・表紙

『グランド・フィナーレ』
講談社:刊

このほど第132回芥川賞を受賞した作品だ。主人公の「わたし」は団塊の世代に属する男で、妻子がいたが、家庭内暴力により調停離婚させられ、愛娘との接触も禁じられている。娘に対しては異常なほどの愛情を持っているが、じつは、この男には少女の裸体を撮影する癖があり、自分の娘もその対象としていたことが露見し、妻と喧嘩になり、家庭内暴力に発展して離婚に追いやられたのだ。

娘の8歳の誕生日、雨の中に佇んで、その姿を一目見ようとしながら、望みを果たせないありさまは、身から出た錆とはいえ、あわれを誘う。

後年、場面が一転する。教育映画のプロデュースにかかわっていたわたしは、職も失い、東北のひなびた町の生家に戻り、家業の文房具店を手伝いながら暮らしているが、友人のすすめで、小学校6年の女児に演劇を教えることになる。

2人の仲のよい少女がいるが、片方が家庭の事情で転居せざるを得なくなったので、別れの記念に子供クラブで芝居をやりたいという切ない望みだ。情にほだされて引き受けたものの、そこでまた、意外な事態に……。

キメの細かい文体で最後まで読み手を引きつけていく、あざといほどのテクニシャンだ。

白蛇教異端審問』 桐野夏生:著/文藝春秋:刊/1,381円+税

著者のコラム、エッセー、書評・映画評などを収録した1冊だが、冒頭のコラム「女の文句」に、目のさめるような衝撃を覚えた。

大人たちはおしなべて、人生諦めが肝心と肩をすぼめていることが多い中で、<文句は社会の活性化に役立つらしい。男は体面や面子を乗り越えられない。だったら文句は女に任せてくれ、と声を上げようではないか>と提言しているのだ。

その桐野流提言を、文学の世界で展開したのが、表題の「白蛇教異端審問」だ。著者はまず、<矢でも鉄砲でも飛んでこい/胸くその悪い男や女の前に/芙美子さんの腸を見せてやりたい>という林芙美子の詩の一節を冒頭に引用し、これが著者の信じる“小説教”の教えだという。

この“信徒”の立場で噛みついているのが、この長編エッセーだ。代表作『柔らかな頬』を『新潮45』が無署名で「読まずにすませるベストセラー」として取り上げ、宗教弾圧と感じられると反撃しているのだ。

文壇では普通、自分の気に入らない批評は“無視”することが常識だが、これに徹頭徹尾反撃することで、著者の内面の文学観がくまなく開示されている。大いに結構なことだ。

「ウケる」話力』 近藤勝重:著/三笠書房:刊/1,300円+税

「ラジオイミダス」などの番組で“話すコラムニスト”として有名な著者が明かす話のコツ。“話材”が勝負だと著者の説くとおり、本書には話材が満載されているので、最初から最後まで、どのページからつまみ食いしても、大いに役立つ。

表題でいうように、「ウケる話力」とはどんなものか。体験を踏まえ、博引旁証的に話をすすめるわけだが、第1章にいわく、「話は『ネタ』が勝負です」。ただし、ウケる話は「笑える話」だけではなく、まずは、だれもが思いあたる話でグッと引き込むのがコツだという。話がうまい人ほど失敗談がうまいというのも、共感させられる。

著者は週刊誌の編集長も勤めた経験で、「だれもが知っている有名人の、だれも知らないネタ」を取り上げれば、売り上げは抜群に伸びたという。

「話し下手」とあきらめている人が、これをやったら、必ず相手が引き込まれるというネタも紹介されている。その1つは、自分の驚きの体験だ。その意味では、往生際の話(不謹慎だが)なども、大いにモテる話材である。ウケるネタを収集し、脳に蓄積しておくコツについても披瀝している点など、今からでも大いに役に立つ。

(K・F)

※「有鄰」448号本紙では5ページに掲載されています。

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