Web版 有鄰

421平成14年12月10日発行

有鄰らいぶらりい

菊日和』 津村節子:著/講談社:刊/1,600円+税

6編からなる短編集だが、やはり表題作がいちばん心にしみる佳品。これは若くして死んだ弟と姉の物語である。命日に慎吾の墓に詣でると、いつも好物の蜜柑が皮をむいて供えられている。妻の美也の心づくしだろうと、恵は思っていたが、違っていた。だれが備えたものなのか?

恵と慎吾は8歳違いの姉弟だった。早くに母を亡くし、恵が母代わりに面倒をみてきた。父は最後まで再婚しなかった。慎吾は学生時代からの恋人と早々に結婚したが、恵は晩婚となり、32歳になってようやく結婚した。恵は3人の子供に恵まれたが、慎吾夫婦には子どもが生まれなかった。子供好きの慎吾は恵の家にやってきては、一人くれと頼んだりした。それから間もなく、慎吾はくも膜下出血で急死したのである。

しばらく後、クラス会に出た恵は、生家が産婦人科医院をしている友人に、慎吾がある神社の前で、見知らぬ母子連れと一緒に撮った写真を見せられる。女性は勤め先の部下だという。慎吾は幸せそうだった……。

他の作品にも死の影が漂うが、しかしそれだけに深みがあり、短編小説の醍醐味を味わわせてくれる完成度の高い作品ばかりだ。

読書力』 齋藤 孝:著/岩波新書:刊/780円+税

読書は力だと著者はいう。読書ほど自己形成をうながす力となるものはないと。このような視点に立って、本書は自己をつくるにはどのような読書をすればよいかをアドバイスし、さらに自己を鍛える読書、自己を広げる読書について指南してくれる。

では読書力があるということの基準はどの程度か。「文庫100冊、新書50冊」が目安だという。もちろん教養書でなければならない。ミステリーや娯楽本だけでは、読書好きとはいえても、読書力とはいえないとする。これらを4年以内で読むことをすすめている。本を読んでも、読みっぱなしでは自己形成につながらない。その内容を要約してみることが重要だ。その意味では新書が便利だという。

自分の本棚を持つことはもちろん大切だが、「本は背表紙が大事」という指摘にもうなずかされる。読んだ本も読まない本も混じっていてもいい。背表紙を見せて本棚に並んでいると、それを見ただけで刺激を受けるというのだ。

読書は人間の幅を広げ、器を大きくする。脳のギアチェンジにも役立つ。自らの体験から繰り出してくる読書指南は説得力に満ちている。

34丁目の奇跡』 V・デイヴィス:著/あすなろ書房:刊/1,200円+税

メイプルウッド老人ホームに不思議な老人がいた。クリス・クリングル。サンタクロースにそっくりだった。白いひげに赤い頬。りっぱな胴まわり。名前もサンタクロースの別名ときている。年齢は不詳である。笑顔が底抜けに明るい。

ご本人が「わたしはサンタクロースです」といっていたが、周囲からは頭がおかしいと見られていた。このためクリス老人は、このホームを出るように指示される。州の法の定めにより、精神病者のホームに移されるというのだ。

クリス老人は町へ出る。町はクリスマス・ムードで盛り上がっていた。あるデパートが繰り出したクリスマス・セールのパレードだった。そのトナカイの模型に乗ってムチを振っている男が酔っぱらいだったため、マネージャーは男を降ろし、通りかかったクリスをサンタに仕立てた。本物そっくりのサンタは、次々に奇跡をもたらしていく。

1947年に公開されアカデミー賞3部門を受賞し、94年にリメイクされて大ヒットした同題の映画の原作。アメリカで“第二のクリスマス・キャロル”と呼ばれて読み継がれてきたロングセラーの本邦初訳。人びとに善意を届ける物語で、クリスマス・プレゼントに最適。片岡しのぶ訳。

ラブ・ビタミン
J・クリアンスキー:著/中央公論新社:刊/1,600円+税

本書の帯に、「彼ともっと気持ちよくなるために」とある。つまり恋する女性のこころとからだに贈るセックスのルールだ。

著者ドクター・ジュディはアメリカでセックス・セラピストの草分け。臨床心理学の第一人者で、毎週月曜―木曜に全米ネットのラジオで放送している性の相談番組「ラブフォン」は、高い人気を保っているという。本書はその番組から編集したもの。

ドクター・ジュディは、セックス・ライフの基本として12のルールをあげている。まず、「3つのR」。つまり、リスペクト(尊敬)、リスポンシビリティ(責任を持つ)、そしてライト・トゥ・セイ・ノー(イエスかノーをいう権利)をあげる。次に大切なのが「4つのT」。つまり、トラスト(信頼)、トーキング(会話)、タッチング(触れる)、そしてタイム(時間)。さらに「5F」が大切。フィーリング(感情を解き放つ)、フィア(恐れと向かい合う)、ファンタジー(ファンタジーを受け入れる)、ファン(楽しく過ごす)……その他となるわけである。

責任あるセックスへの4段階としてチェックするポイントも重要だ。「大事なことは、性の中に、愛情(ラブ)と誠実なる思い(スピリチュアリティ)を見出すこと」というアドバイスも、よりよい恋の成就のために欠かせないだろう。あわやのぶこ訳。

(S・F)

※「有鄰」421号本紙では5ページに掲載されています。

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