Web版 有鄰

476平成19年7月10日発行

有鄰らいぶらりい

お言葉ですが… 11』 高島俊男:著/連合出版:刊/2,200円+税

『週刊文春』に連載、10巻目まで文藝春秋から出されたシリーズ。連載が終了、単行本のシリーズも打ち止めとなったため、この本だけが別の出版社から出るという珍しいケースとなった。

中国文学者なのに「漢文先生がきらい」(文春新書『座右の名文』。この中で儒者ぎらいの本居宣長『玉勝間』が儒者を罵倒しているのを読むと「そのたびに快哉を叫ぶ」と書いている)という方。日本人が明治以前は漢文、以後は欧米語を有難がって日本語を馬鹿にしていると、戦前の教育勅語の間違いや文科省の国語政策などを“罵倒”している。

戦前の左翼は「若い知識人の良心のあかし」だが「戦後の左翼は時流」といった胸のすく言葉もあるが、圧巻は「預言」という言葉に対する辞書の間違いに対する批判。

「預」は「豫」の略字(異体字)。「予」は日本の戦後略字。つまり「豫言」「預言」「予言」は同じことなのに、「広辞苑」をはじめとする日本の多くの辞書は、「予言」とは別に「預言」という項を設け、「神から預けられた言葉」などと珍妙な解釈をしていると、巻末の数章を使い、詳細緻密に論じている。

この間違い、元は「預り金」「預け金」と呼ばれていたものが「預金」となった影響もあるだろうと、この経緯についても一章を設けている。博識すぎて話が飛ぶのが難だが“快哉を叫び”たくなる一書。

浅草色つき不良少年団』 祐光 正:著/文藝春秋:刊/1,476円+税

『浅草色つき不良少年団』・表紙

『浅草色つき不良少年団』
文藝春秋:刊

昭和の初めごろ、浅草には「浅草紅色団」「浅草黒色団」(別名暗黒団)「浅草黄色団」の3つの色の名前をつけた不良少年団があったという。本書は、売れない漫画家が、元吉原で牛太郎[ぎゅうたろう](遊女屋の客引)をしていたという老人に会い、当時の裏の裏の事件にかかわった色つき不良少年団の顛末を、5つの中篇にまとめている。どの話柄も劇画の原作のようにドラマチックで起伏に富み、興味満点だ。

第1話「幻景浅草色付不良少年団」。浅草が帝都一の歓楽街だったころの話だ。主人公(語り手)は黄色団を率いていた“似顔絵ジョージ”と呼ばれた男。メンバーが100人にも及ぶ大グループの紅色団の幹部には、お菊と呼ぶ19歳のノッポの少女もいた。そのお菊と主人公の弟分の辰吉が中心になってドラマが展開していく。

ある夜公園内で、他のグループと小ぜり合いが起こり、隣接した家に飛び込むが、そこは留守。怪我をした辰吉はそこで死んでしまうが、翌朝、その横に見ず知らずの女の死体があった。主人公たちは、罠にはまったのだ。やがて、警察隊に追われる身となる。

このほか、「東鬼啖事件」「瓶詰少女」「イーストサイド物語」「二つの墓」など、いずれも往時の浅草を背景に、古老の語り口によって、風俗と習慣が鮮やかに描き出されているのがいい。

戦力外通告』 藤田宜永:著/講談社:刊/1,900円+税

55歳でリストラされた男の人生を描いた長篇。婦人服専門のアパレルメーカーに勤めていた主人公の私は、リストラされて9か月。正月が来ても福は来ない。就職活動にもいささか疲れてきた。私に代わって妻の恵里子が薬局で薬剤師として働くという。

小さな事件が起きる。妻の実家にシロアリ駆除と称する業者が押しかけ、強引に高額の契約をとられてしまう。私は、つてをたよって弁護士と連絡を取り、無事解約させることに成功するが、あとは暇をもてあまし、勤めていたころは出席もしなかった同窓会などにも顔を出し、飲み歩く日々。そうした中で、私は晶子と知り合う。晶子は中学の同窓生だったが、1年下だった。だんだん深い仲になり、やがてベッドを共にする仲にまで発展してしまう。

就職活動は依然、うまくいかない。気に入った就職先があっても条件が合わない。そんな中で、妻の恵里子だけは元気だ。しかしやがて、リストラされた会社から話があり、再就職することになる。経営トップが代わり、私は再雇用されることになるのだ。

中堅社員のリストラをめぐり、その日常を描きながら、現代社会の大きな変革が、静かに進んでいる状況が、たくみにとらえられている作品だ。

第1回12歳の文学賞受賞作『12歳の文学』 小学館:刊/1,500円+税

小学館は今年「12歳の文学」という前代未聞の文学賞を設定した。本書はその受賞作と選評を総括して掲載している。

大賞受賞は、『月のさかな』(追本葵)と『「明太子王国」と「たらこ王国」』(井上薫)の2作。小学校6年生と4年生だが、2人とも女の子。『月のさかな』は幻想的な作品だが、『「明太子――』はメルヘンチックな作品だ。

『月のさかな』はプールで泳いでいる2人の姉妹が、水に浮かんだ月を見て、月まで泳いでいくという設定。『「明太子――』は、明太子屋さんの「明太子王国」と、ライバル「たらこ王国」が戦争をするという物語。マンガの原作のようで面白い。

本書には大賞だけでなく、優秀賞作その他の受賞作も併載している。いずれも12歳だが、男の子の作品は少なく、女の子のほうが圧倒的にすぐれていることがわかる。

〈12歳世代は創造することのおもしろさがわかる時期。小説や映画、音楽、漫画など表現に触れるのにちょうどいい頃だ。〉と選者の1人、石田衣良氏は述べている。

今後ともこの賞が発展して、すぐれた作家がぞくぞく誕生してくることを望みたい。

(K・F)

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