Web版 有鄰

475平成19年6月10日発行

有鄰らいぶらりい

輝ける文士たち』樋口 進 写真・文/文藝春秋/5,714円+税

谷崎潤一郎、永井荷風、志賀直哉、佐藤春夫、川端康成…といった文豪たちを筆頭に大正・昭和期を彩った作家、評論家、画家、俳優など270余名が綺羅星のごとく並んだ何とも豪華な写真集。

著者の樋口さんは、菊池寛のあとを継いだ作家の佐々木茂索・社長に乞われて文藝春秋社に写真部を創設。初めは仕事場も社長応接室に間借りしていた。秘書が留守のときお客があると、著者がお茶を運び、ついでに身体から離さなかったカメラでパチリ。

写真嫌いだった志賀直哉夫妻の珍しい写真も、こうして撮られた。珍しいといえば、檀一雄の名作『火宅の人』のモデルとなった女優で愛人の入江杏子さんとのツーショットもある。檀氏と食事中、ふらりと現われたので著者は編集者だろうと思って撮った。のち事情を知り、55年間篋底[きょうてい]に秘めていたという。

著者はのち、池島信平(元文藝春秋社長)、扇谷正造(元週刊朝日編集長)などの後を継いで講談社の榎本昌治氏らと文壇冠婚葬祭の世話役を長年つとめた。当然、作家たちと親交も深くなり、批評の神様、小林秀雄の前で寝そべっている咥えタバコの三島由紀夫など、彼らの素顔の写真を撮るのに役立ったと思われる。

家日和』 奥田英朗:著/集英社:刊/1,400円+税

『家日和』・表紙

『家日和』
集英社:刊

6編を収めた短編集で『家日和』は6編を総称するタイトル。どれも今日の家庭を舞台に、かつてのホームドラマとは一味も二味も違った、しゃれた味わいの作品である。

巻頭の「サニーデイ」は、不用となった家具をインターネットオークションで処分する話題。家には二児が小さいころに買った舶来のピクニックテーブルがあるが、今では無用の長物。それで古道具屋などに相談するが二束三文。そこへ妹が、インターネットオークションという新しいマーケットを教えてくれる。ものは試しと、これに出してみると、意外にも高値で売れて大喜び。そこで不用になった家具はないかと探し回り、ぶら下がり健康器具、夫の使わなくなったギターなどに目をつける。ギターについては夫が反対したが、気がつかぬふりをして処分、これも予想外の高値で売れ、すっかり上機嫌になってしまう。

さて、次は……。物置に入れたままになっているレコードプレイヤーに目をつけた。今ではほとんど使われないが価値のあるものだ。これも夫に内緒でオークションに出した。ところが驚いたことに、予想もしなかった高値がついたのだ。彼女がその価値を知らないためだった。驚きあわててしまう……。

その他「ここが青山」「家においでよ」「グレープフルーツ・モンスター」「夫とカーテン」「妻と玄米御飯」など、いずれも、今日的で面白い。

夜回り先生のねがい
水谷 修:著/サンクチュアリ出版:刊/1,400円+税

著書はもともと普通制高校の教師だったが、定時制に配置転換になってから、時間外に、盛り場などに出没する生徒たちを指導するため、夜回りを繰り返すようになった。このため”夜回り先生”と呼ばれるようになったのだが、教員退職後はもっと本格化して、少年少女たちの非行化防止に奔走している。

著者の姿勢は一貫しており、厳しく叱りつけるのではなく、その立場に立って話を聞いてやろうというものである。非行のなかにも、薬物中毒、性的非行、暴行など、さまざまあるが、すべてに原因があり、非行も被害の一つといえることだろう。

「ミキ」と題したエピソードが、なかでもが感動的だ。ある寒い冬の夜、援助交際でラブホテルに入ろうとしていた少女をとがめる。ミキという中学生だった。ミキは母に捨てられていたのだ。ミキを自室に連れて行き、生活の面倒をみながら母を見つけ出してやる。母はアルコール依存症だった。しかしミキは自分が働いて自立の道を歩み始める。だが、その体は薬物中毒におかされていて、入院を余儀なくされる。著者はわが子のようにいつくしむが、睡眠薬が原因で、ミキは死んでしまう。あわれな末期だ。

このエピソードにかかわらず非行の背後には救いがたい悲劇があることがわかるが、著者は辛抱強く相手の立場に立ち、愛と理解の手を差しのべている。

白いスーツで内定を』 経沢香保子:著/ゴマブックス:刊/1,200円+税

女子学生が就職活動をするときは、黒のスーツ姿というのが常識らしいが、著者は、タイトルにもあるように真っ白いスーツ姿で受験におもむき、しかも一流企業ばかり百戦連勝した。その秘訣はなにか。本書はそのレポートだ。

白いスーツで受験、というのは、じつはシンボルにすぎない。面接に際しては、堂々と、しかも感じよく、自己主張をすること、という点に要約されそうだ。

著者はこの体験から学んだものを、受験生にも伝授しようと、トレンダーズ株式会社を設立、現在、その代表取締役を勤めている。著者のアドバイスをいくつかピックアップしてみよう。

“就活”は、社会人になるための大切な準備運動です。

得意分野を持つ人より自分に自信を持っている人が面接に強いのです。

「入れるところに入れればいいや」では、どこにも入れません。

日本はまだまだ平等世界。就職活動に学歴は関係ありません。

その他etc。気がつくことは女性の職場も変わりつつあるということだ。女性社員も男をしのぐ“戦力”として企業から期待されている時代なのだ。本書はその意味で、まことに素晴しい本といえよう。

(K・F)

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