Web版 有鄰

490平成20年9月10日発行

武田双雲と『ひらく言葉』 – 人と作品

「日々の短い日記」をまとめた、書道家の「言葉集」

takedasan
武田双雲

短い言葉にこそパワーがある

書道家、武田双雲さんの初の「言葉集」である。ふと思いついたことを短い言葉にし、メモにとっておく習慣がある武田さんは、ホームページに2003年から、「日々の短い日記」をつけ始めた。この本は、蓄積された言葉を厳選して、編んでいる。

「”短い日記”を続けるうち、自分の思いをよりシンプルに、着実に相手に伝える面白さに気づきました。読む人の想像力が膨らむから、実は短い言葉の方が、長く書くよりもパワーがあると気づいたのは画期的だったし、思いを短い言葉で吐き出すプロセスを繰り返して、僕自身の感性が何倍にも膨らんでいった。そう実感した頃、本の企画が持ち込まれて、ベスト・タイミングだったと思います」

掲載された言葉の裏に、何十倍もの掲載されなかった言葉がある。さらにその裏には言葉にならなかった何百倍もの「思考」、何千倍もの「感覚」がある。できるだけ多くの人に伝わる、普遍性のある言葉を選んだが、選ばれた普遍的な言葉の方が、自分らしかった――。そんな不思議な矛盾があったという。

例えば、こんな言葉。

<継続の破壊力を知ってしまったので、
死ぬまであきらめない>

<力を抜いて手を抜かない。
その意味とコツがだんだんつかめてきた>。

「若い頃は、力を入れるほど破壊力があると思っていたけれど、最近は、小さなジャブをずっと続けていく方が、結果的に大きな破壊力になると思って、焦らなくなりました。4年先という照準があるオリンピック選手と違い、僕の人生全体が照準だから、のびのびと晴れ晴れと毎日を生きて、リラックスしたまま凄い力を発揮するよう務める方が大事だと思っています」

<傷つけてくる人を責める時間があれば、
傷つかないように自分を進化させたほうが、
圧倒的に効率的だ>。

「長らく、逆風や人のことは意識せず、宇宙とか物事の事象とか、全体的なことに関心がありました。それが、今3歳になる子供が生まれ、日々家族と暮らして、人の何気ない言動に敏感になった。見えなかったものが見えてくるのは、見えずに無邪気に進むより恐怖心を伴うが、その分、何気ないひと言に凄い影響を受けていたと、言葉の威力に感動し、感謝の心が溢れてきた。そこからまた自分の言葉が生まれてくる。明るく葛藤しています」

斬新な個展などを通して創作活動を展開

1975年熊本市生まれ。3歳より書道家の母、武田双葉さんに師事。東京理科大学卒業後、NTT入社。2001年に書道家として独立、B’z(ビーズ)、野村萬斎など様々なアーティストとの共演や斬新な個展を通して、創作活動を展開。映画「北の零年」「春の雪」などの題字を手がけ、中国・上海美術館から龍華翠褒賞、伊フィレンツェにてコンスタンツァ・メディチ家芸術褒賞を受賞。著書に『「書」を書く愉しみ』『書愉道』『たのしか』他。最新刊は子供向け書のアートブック『しょぼん』と『書本』。

「退社したときは全くのゼロでした。特に目標がないから”50歳までに世界中で1億人以上が感動する書活動を行う。それに値する人間になる”と掲げました。まだまだだな、と思っています。書の背景にある歴史、東洋思想について、文献で知識を得るより、自分の感覚を磨いた方が、本当の意味でつかめると思う。日本人の僕が、日本に住んで、周りの生活に深い洞察力を持てば、自然に見えてくるものがある。何気ない日常の中に、思想は十分に詰まっていると思います」

神奈川県藤沢市で、約250人の門下生がいる「ふたばの森」書道教室を主宰。9月18日から23日まで、鎌倉芸術館で、門下生によるふたばの森書道展『書ノ空 つづく、つながる、見つかる。』が開かれる。

「約180点を展観しますが、門下生の書を見ていると人の個性とはこんなにも凄いのかとびっくりします。人間の強いエネルギーや思いは、何かを媒介したときに伝わる。媒介の中で、最も強いもののひとつが言葉だと僕は思っていて、言葉と書をふんだんに使って、一人でも多くの人の心を動かしたいと願っている。表現し続けるのは簡単ですが、僕は、自己満足では絶対にいやで、表現がどれだけ人を喜ばせるか、人の人生にプラスに働くかにこだわっています。100人が『おもしろくない』と思っている状況でも、自分だけは様々なことに感動できる感性を高めていきたい。その感動を伝えたいし、分かちあいたい」

(青木千恵)

『ひらく言葉』・表紙

ひらく言葉
武田双雲/河出書房新社/1,200円+税

※「有鄰」490号本紙では5ページに掲載されています。

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