Web版 有鄰

488平成20年7月10日発行

有鄰らいぶらりい

わが人生の歌がたり 昭和の青春
五木寛之:著/KADOKAWA:刊/1,500円+税

NHKの「ラジオ深夜便」という番組で、著者が激動の昭和を振り返りつつ、折々に聴いた歌謡曲について語った内容を本にしたもの。

外地で生まれ、敗戦のとき母と死別、福岡に引き揚げてきた幼児期から大学入学までをつづった第1弾「昭和の哀歓」に続く第2弾である。

上京して早稲田大学露文科に入り、アルバイトで最低の生活はできたものの、郷里に残した病身の父と弟妹のことを思うと、夜も眠れなかったという。さらに父親が亡くなっても帰る旅費がなく、臨終にも立ち会えなかった「貧乏」を、ただの「貧しさ」「貧困」と区別、あの青春時代に戻るかと聞かれれば、真っ平ごめんだ、とも言っている。

そうした状況の中で聴いたのが三橋美智也の歌う「哀愁列車」であり、一方では石原裕次郎の「錆びたナイフ」などだった。裕次郎の兄、石原慎太郎氏は著者と生年月日が全く同じ。「太陽族」をうらやましくは思ったものの、反発はしなかったという。

それにしても、授業料を滞納しているため、卒論が受け付けてもらえず、未納分を納めないと「休学」も「退学」も認めない、という大学側の対応には私学とはいえ驚く。結局「抹籍」という処分になった氏が作家として有名になったとき、あるパーティで早大の総長から校友会に入って欲しいと言われて、この経緯を話し、送られてきた滞納分の請求書5万何千円かを払って「早大中退」になったという話にも苦笑を誘われる。

その後、就職難時代の社会に出てからも、直木賞を受けるまで、さまざまな仕事で苦闘する昭和20〜30年代の五木さんが、その傍らにあった歌とともに語られていく。

団地が死んでいく』 大山真人:著/平凡社新書/720円+税

住宅難時代の昭和30年(1955年)に発足した日本住宅公団(現・UR=都市再生機構)が造る団地への入居は、庶民の憧れの的だった。地方自治体が造る公営住宅は収入に上限を設けたが、公団の方は逆に下限があり、いわば高嶺の花でもあった。

その団地群がいま“死に体”になっているという。東京の多摩ニュータウンは多摩市、八王子市、稲城市、町田市にまたがる巨大団地である。その諏訪・永山地区で昭和46年(1971年)に入居が始まったとき、20代から30代の夫婦が年間3,000戸に入居、永山地区だけで4校の小学校が建てられた。

それから三十数年、ニュータウンの小中学校は6校が統廃合され、あと3校も廃校が検討されているという。人口34万人という計画は19万人にとどまり、企業誘致は失敗、虫食い状態で建てられたグリーンベルトには広大な未利用地が残された。その未利用地に民間の高層マンションが建ち、タウンの不便な奥地に住む住民が移り住み、2割を超す空室を生んだ。残されたのは引っ越す余裕もない高齢者たち。そこに、この本のテーマでもある孤独死という悲劇が生まれる、という。

高度成長期に建てられた団地は、みな同じ状況らしい。自身、団地に住み、独居老人候補という著者は住民同士がお互いを助け合う、昔ながらの「結の創造力」が必要と言う。自治会・民生委員・地区(団地)社会福祉協議会が助け合って孤独死を予防する体制を作っている常盤平団地などを参考に、「結」の確立を提案している。

日本珍スポット100景』 五十嵐麻理:著/ぴあ:刊/1,200円+税

山口県長門市の二尊院というお寺に世界の3大美女の1人、楊貴妃の墓があり、青森県新郷村にはキリストの墓、石川県押水町には旧約聖書で有名なイスラエルの民を導いた預言者・モーゼの墓があるというから、日本も広い。

二尊院には、戦乱を逃れて日本に渡った楊貴妃は、ここで亡くなったという「楊貴妃伝」が寺の由来書とともに伝わっている。キリストとモーゼの墓の由来は、どちらも奇想天外な日本史が書かれている古文書「竹内文書」に根拠を置いたものという。

新郷村は以前「戸来[へらい]村」と呼ばれ、ヘブライから来ている言葉という。村にはユダヤ風の言葉や風習が多いというから、キリスト伝説も全くのデタラメではないようだ。

岐阜県川辺町の縣神社には「乞食祭り」、愛知県の牛久保八幡社では「うじ虫祭り」と神社も負けていない。横浜市戸塚町の八坂神社の「お札まき」の狂乱振りも上げられている。

大学時代には500か所以上の珍スポットをめぐる日本1周を2度達成したという著者がその魅力を紹介している。

ゲゲゲの女房』  武良布枝:著/実業之日本社:刊/1,200円+税

『ゲゲゲの女房』・表紙

『ゲゲゲの女房』
実業之日本社:刊

漫画に関心がなくても「ゲゲゲの鬼太郎」の名前は、知ってる人が多いだろう。その作者、水木しげる、本名・武良茂の妻が、連れ添って半世紀の歴史を振り返った初のエッセーである。

安来節で有名な島根県安来市に生まれた著者が、隣県・鳥取・境港市生まれの水木と見合い。その5日後に結婚したとき分っていたのは、10歳年上、戦争で片腕を失い東京で貸本マンガを描いている人というだけだったという。

花の都会を想像して着いた東京・調布市の家は、周囲が畑ばかりの粗末な2階家。隙間風が入り放題で、たちまち手はあかぎれ、足はしもやけになったという。

収入が少なすぎる、これで生活できるわけがないと、税務署が疑って訪ねてきて口惜しい思いをしたり、電気まで止められる赤貧生活から、控えめに夫を支え続けてきた妻の心情と、頑固な夫の奮闘ぶりが率直に伝わってくる。

(K・K)

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