Web版 有鄰

466平成18年9月10日発行

有鄰らいぶらりい

日本沈没 第二部』 小松左京+谷 甲州:著/小学館:刊/1,800円+税

33年前に日本列島を沈没させるという力業を見せたSF界の巨匠、小松氏が、今度は若いSF作家らによるプロジェクトチームを作り、自らの構想を具体化する物語を討議、谷氏が執筆して沈没25年後の日本国と日本人の運命を描く。

国土を失った日本だが、国と政府は存在している。政府は、酷暑の地、パプアニューギニアや酷寒のカザフスタンに移植するなど、世界各地に分散居住している日本人の新たな入植地整備をひそかに計画していた。

その一つは、日本列島が沈んだ海域に、人口100万人規模の巨大な人工島を建設する計画。もう一つは現在300万人がいるパプアニューギニアを再開発、5千万人を居住させる計画。

この計画を実現させるため政府は、日本人の技術力を結集、未来予測の地球シミュレーターを作るが、このシステムがとんでもない地球の未来を示す。第一部を読んだ方はお分かりの通り、これは文字通りの“サイエンス”フィクション。科学オンチの私など分らない箇所も多い。

しかし、後半では、地球の危機を前にして、お互いに信頼しあいながら、日本国と日本人を第一に考える首相と、コスモポリタニズム(世界主義)を唱える外相との対立など、人間臭さが出てきて興味が倍増する。第一部に劣らぬ大作である。

前夜のものがたり』 藤田宜永:著/講談社:刊/1,700円+税

『前夜のものがたり』・表紙

『前夜のものがたり』
講談社:刊

8篇の短篇を収めているがいずれも中年(初老)の男の愛欲の迷いを描いて心憎いばかりの作品だ。篇中、冒頭の「雨の前夜」は、

主人公の私はフリーライターで、編集者でもある。団地に住む紀香の部屋に転がり込んで居候。紀香はスナックを経営しており、私は飼い犬の世話をする以外、酒びたりの毎日だ。団地の3階のベランダから見ていると、雨の日に限って水色の傘の女が通るのに気づいた。まぎれもなく菜穂子だった。かつて私は、菜穂子を助手として使い、その才能と美貌に溺れた。しかし多情な私の言動がもとで破綻したのだった。菜穂子に会おう。もう一度……。

「修復の前夜」もスリルとサスペンスに富み、面白い。私は会社の経営者だが、ショットバーで知り合った女とバイクに相乗りして転倒、私だけが怪我で入院した。そこで知り合ったつつましやかで美人の看護婦にたちまちぞっこん、軽井沢のホテルへ連れ出すことになる。

彼女は急な用で一足遅れることになる。約束の時刻、部屋のノック。ときめきながら開けると、相手は意外や意外第二夫人のような存在の女だった。

やがて再びノックが。ようやく現われたと思いきや、それは妻だった。いったいどうしたことなのか。ほかも多情多恨の悲喜劇。

白夜街道』 今野 敏:著/文藝春秋:刊/1,600円+税

本年度吉川英治新人賞受賞作家の最新作長編。日本とロシアの両国にまたがるテロの追跡劇だ。警視庁公安部外事一課の警部補、倉島達夫は、新しく出された指令のメモを見て、いつになく緊張する。ヴィクトル・タケオビィチ・オキタ。日系の血を引くこのロシア人は、ロシア貿易商と一緒に来日したテロリストだった。4年前に来日したときは、日本の暴力団組長を殺害した疑いもある。

彼の案内によってロシア貿易商ペデルスキーと密会した外務省の幹部が、原因不明の怪死をとげる。倉島は上司とともに、暗殺者を追ってロシアへとぶ。

この作品では元KGB(国家保安委員会)の秘密組織がソビエト体制崩壊後どうなっているのかなど、ロシアの新しい社会状勢について詳述されていて、納得がいく。また日本国内では、警視庁は地方機関の一部にすぎず、国を代表するのは外務省であることなどから、指揮命令系統がスッキリせず、捜査が難航することなども描いている。

倉島らは暗殺者を追いつめるが、結局、真犯人には逃がれられ、不満足な形でしか解決しない。

昭和史からの警告
船井幸雄・副島隆彦:著/ビジネス社:刊/1,500円+税

戦争にだけは巻き込まれたくない、というのが、ほとんどの日本人の世論である。しかし、日本をめぐる海外の雰囲気は、何やら不気味さを増してきている。韓国や中国は何を考えているのか、日本はアメリカ一辺倒で大丈夫なのか。「戦争への道を阻め」というサブタイトルの本書は、昭和史の研究者として、すでに定評のある2人の対論によって、鋭く問題が指摘されている。一読、心が緊張する思いだ。

日本のアメリカ依存についても、意外な警告がなされている。つまり、すべてはアメリカの世界制覇の一環だというのだ。小泉政権の郵政民営化にしても、アメリカに資金援助するためだ。製造業の70パーセントをはじめ、あらゆる産業がアメリカの支配下になってしまったという。かくて日本を戦争に駆り立てる条件は、もうそろっているというのだ。戦争の相手はズバリ中国だという。

かつて日本を世界戦争に引きずり込んだのは陸軍であるというのが、これまでの常識だが、本書では、海軍こそ、その端緒を開いたのだと指摘し、とくに、日米開戦を仕組んだのは海軍大臣米内光政だったと、具体例をあげて説明している。これは意外だ。ともかく、昭和史を再検討する必要を痛感させられる本だ。

(K・F)

※「有鄰」466号本紙では5ページに掲載されています。

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