Web版 有鄰

430平成15年9月10日発行

石田衣良と『4TEEN』 – 人と作品

東京・月島を背景に描く14歳の中学生4人組の物語

石田衣良

平成15年上半期直木賞受賞作

東京の盛り場、池袋を舞台にした『池袋ウエストゲートパーク』シリーズで人気のある作家が、同じ東京でも下町の中央区月島を背景にした小説で直木賞を受けた。

選考委員の阿刀田高氏によると、いまは高級マンションと昔ながらの長屋が雑居するこの土地が的確に描かれていることも評価されたらしい。

「(高級住宅地のイメージがある)杉並区じゃできない(小説)」というわけである。

表題どおり、主人公は14歳の中学2年生4人だが、バブルのころは3億円以上した高層マンションの34階に住んでいるナオト。もんじゃ焼きが立ち並ぶ路地の奥に残っている昔ながらの長屋にいるダイ。隅田川沿いの中級マンションや古い建て売りの一戸建てに住むジュンや語り手の「ぼく」テツロー。〈銀座という日本一の繁華街から近いせいか、月島の町はでたらめに貧富の差が激しい〉のだ。

〈月島は明治になってできたばかりの埋立地で島って感じだけど、むこう岸は同じ中央区でも陸地で、しかも築地や銀座があって街って感じがする〉と語りべの「ぼく」は言う。しかし、〈銀座の裏町はぼくたちの子どものころからの遊び場〉で〈おしゃれな街だなんて思ったこともない〉というから、たしかに東京でも特別な地域である。

「月島を小説の舞台に選んだのは、4年ほど暮らしたことがあるからです。池袋と月島は(違うようにみえても)ポジとネガではつながっています」と石田さんは語る。

小説は8編の連作形式で、その第1話「びっくりプレゼント」は、早老症(ウェルナー症候群)という病気で入院しているナオトのところへ、残る3人がそれぞれ見舞い品として「ストリート系のエロ雑誌」を持っていくところから始まる。道々、昨夜のオナニーの数を聞かれ、「7回かな」と誇らしげに語る大食いでスケベのダイ。いまクラスの男子の話題はオナニー一色なのだ。どこから見ても普通の少年と自分でも思っている「ぼく」は、その数にショックを受ける。友達には3回と答えていたが「実は2回が記録」なのだ。「やっぱりダイは異常だな」と言う、頭のいいリーダー格のジュン。ここで3人の性格が表現される。

病院で半白髪、しわだらけのナオトの症状に衝撃を受けた3人は、彼を元気づけようと誕生祝いに、小遣いを集めて援助交際をしている女子高生をプレゼントしようと、渋谷の街へ行き、悪戦苦闘の末、ようやく捜し出す。

先の阿刀田委員は選評にあたって「どこにでもいそうな普通の少年たち」と、繰り返していたが、戦前戦中などに中学生時代を送った年寄りや大人たちは、これがいまの普通の少年か、と驚かされるかもしれない。

現代が色濃く陰を落としている8編の連作

ところで、この最初の章では、4人ともまだ13歳の1年生。まだ、というか、当然というか、全員童貞である。幼児殺害事件の長崎の少年と同じ歳、同じ学年なのだ。

石田さんは「ぼくにも6歳と4歳の子供がいるので、事件はショックでした。でも、ぼくは自分の周りにいる少年たちを信じたい」と言う。

「池袋―」シリーズの少年たちとの対比では、「不良少年も普通の少年も、ぼくの世界では変わらないんです」。

どの話にも現代が色濃く陰を落としている。ジュンは携帯電話の不倫サイトで人妻と知り合い、ダイは父親を路上に放り出して凍死させる。ほかにもダイエットと飽食を繰り返す不登校の少女、ダイを恋する同性愛の少年などが出てくる。こうしてみると立派な不良仲間だが、ジュンは暴力男を亭主に持つ人妻に同情して亭主と対決するし、ダイも酔っ払って暴力をふるう父親の酔いを覚まそうとしたのが凍死につながったのだ。

この事件のせいで屈折したダイは、3人と離れヤクザとも付き合いのある本格的?不良グループに取り込まれそうになるが、残る3人が体を張って奪還する話もある。

読んでいて、頭はいいが友達がいなかったという長崎の少年のことを思った。恐らくは孤独な性衝動を内部に抱えこみ屈折していったであろう少年に、エロ本を見せ合うようなこうした仲間がいたら、ああまで陰惨な事件にはつながらなかったのではないか、と思わせるのだ。

「小説は現実から抽出して作るものだが、私は小説によって命を救われたこと、助けられたことがあります」という石田さん。「肩の力を抜いてボツボツ書いた」というこの小説にも同じ思いを託したのかもしれない。

(金田浩一呂)

4teen

4TEEN
石田衣良/新潮社/1,400円+税

※「有鄰」430号本紙では5ページに掲載されています。

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