Web版 有鄰

569令和2年7月10日発行

横浜育ち – 海辺の創造力

藤野千夜

生まれたのは福岡県だけれど、2歳か3歳で横浜に越して来てからは、短く千葉に転居したほかは、ずっと市内に暮らしている。合わせて50年以上……55年ほどになる。

そのわりにたいして横浜を知らない、とこの前、大桟橋のほうへ取材に行ってあらためて思った。横浜駅はよく利用するのだけれど、海のほうまではなかなか足を延ばさない。その日は車だったので中華街、横浜スタジアム、山下公園、赤レンガ倉庫、といった辺りを走り回って、あいにくのコロナ自粛で大きな駐車場も閉まっていたから、そのまま一人横浜観光を済ませた気分になって帰った。

前は人が遊びに来ると案内していたけれど、思えば大桟橋界隈も10年ぶりくらいだった。市内と言っても住んだのは港らしさも異国情緒もない住宅地ばかりで、5回ほど引っ越したけれど、さほど海のそばだったこともない。

ただ横浜育ちらしく、崎陽軒のシウマイの醤油入れ(ひょうちゃん)は集めていた。昭和40年代、神奈川区の小学生だった。

その頃のコレクションはすでにないけれど、大人になってから、オサムグッズの原田治さんがイラストを描いた2代目があまりに可愛くて、また集めはじめた。これは今も引くほど手元にある。横山隆一画伯の絵に戻ったときは、少しほっとしたくらいだ(横山先生も好きです。『フクちゃん』持っています)。

サッカーはJリーグ発足以来のファンだけれど、やはり地元、横浜F・マリノスを応援している。2004年チャンピオンシップの浦和レッズ戦は新横浜で見守ったし(勝った!)、翌年ACLの山東魯能戦も三ツ沢で観た(負けた)。7、8年前、買い物帰りの駐車場で、事前精算をしようと列につくと、前に立つのがF・マリノスの点取り屋、ブラジル出身のマルキーニョス選手だったのにはくらくらした。

マルキーニョス!

心の中でずっと叫んでいたが、私はシャイなので声はかけなかった。

プロ野球は20年ほど前に、ベイスターズを応援に行ったのが最後の生観戦だけれど、そのときは隣の席が、俳優の大石吾朗さんだった。コッキーポップ! 赤い迷路!と思ったが、もちろん声はかけていない。

映画館は相鉄ムービル(大林宣彦監督の『時をかける少女』を何度も観た。テイタム・オニールの『リトル・ダーリング』も)。持ち帰りのお弁当は勝烈庵(ヒレカツ派)。

そして本は有隣堂だ。ダイヤモンド地下街と呼ばれていた頃から、横浜駅西口地下のお店を利用している。思い出がたくさんある。文庫専門コーナーでかけてもらったカラフルなカバー。小説家になって最初の単行本は、いくら見守っても誰も手に取らないので何度も自分で買った。宝物の大島弓子選集は、文具売り場の奥にあった、中2階(地下だけれど)のコミック売り場で買いそろえた。

今は新しいコミック売り場で、敬愛する手塚治虫作品の、豪華な復刻本をこっそり買い集めている。棚の場所はもう知っているから、横浜駅に寄ると、真っ先にそこへ向かう。

(作家)

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