Web版 有鄰

579令和4年3月10日発行

横浜はすごい – 海辺の創造力

高山羽根子

たとえば昨年度のヤクルトスワローズの躍進に、

「東京はすごかったですね」

とは言わないだろう。考えてみれば当然のことだ。東京には球団がふたつあるから。

「広島、残念でしたね」

といわれれば、まあ大抵の広島県民は、カープのことだと思うかもしれない(偏見だったらすみません)。

1998年、「横浜がすごかった」ことをどれくらいの人が知っているだろうか。20世紀末の関内、馬車道、みなとみらい、横浜駅周辺まで、文字どおり「すごかった」。暴動のようにすら見えるその狂乱の原因は、「野球」だった。関内の球場をホームにしている球団がリーグ優勝をし、日本一になり、甲子園では松坂大輔という「平成の怪物」の活躍によって横浜高校が史上初の高校野球3冠を成し遂げた。

ところで前2シーズン、さまざまな要素の影響でNPBは大きな変更を強いられ、昨年度横浜DeNAべイスターズはリーグ最下位に終わった。9回での無延長終了、無観客試合、交流戦の廃止やエキシビションマッチ開催。ただすべてのチームが同じ環境に置かれるため、これをどううまく利用できたか、ということが影響したシーズンだったのかもしれない。たとえばヤクルトの川端選手の代打での活躍は、延長なしのルールが大きく影響していることは間違いない。

ただベイスターズは、外国人選手の来日の遅れ、オリンピック会場の問題による本拠地開催変更など、デメリットの方が大きく出てしまったように見える。しかしもちろんそれが良いほうに転ぶこともある。外国人戦力のいないあいだにルーキーが主軸として活躍し、外国人選手の合流によってチームが一気に波に乗って行けた、などなど。

シーズンが終わり、ストーブリーグと呼ばれる時期に話題になるのは一般的には選手のことだ。ただこのシーズンオフの横浜はちょっとちがい、もっとも話題になったのが「コーチ人事」だった。

去年から監督を務める三浦大輔氏が「98年戦士」であることは言うまでもないだろう。横浜大洋ホエールズに入団し、98年の横浜ベイスターズで優勝を経験、横浜DeNAベイスターズになってからも精神的支柱として、ずっと横浜で現役を続けてきた選手だ。今オフの横浜には彼を支えるために同じく98年戦士の石井琢朗、斎藤隆、鈴木尚典の3氏がコーチとして帰ってきた。それに、TBS時代に石川雄洋氏と共に二遊間を守った藤田一也選手も10年ぶりにベイスターズに復帰というニュースも明るい材料だ。

横浜はかつてはすご「かった」。そうして「横浜がすごい」というのは、これから見ることができる景色でもある。だからこそ、かつての、すごかった横浜の景色に存在していた人たちが集まったことには大きな意味がある。ファンは物語を思い起こし、期待を寄せる。それに呼応し、コーチや選手たちは新たな景色を作る。DeNAがNPBに参入したときの理念「継承と革新」のように、彼らが見せる2022年の横浜の景色が楽しみでならない。

(作家)

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