Web版 有鄰

583令和4年11月10日発行

有鄰らいぶらりい

孤立宇宙』 熊谷達也:著/講談社:刊/2,310円(税込)

2059年春、仙台市に住む高校2年生の相原蓮は、幼馴染だった工藤彩音と再会する。6年先に、「Xデイ」が迫っている頃だった。

2041年、地球に衝突すると思われる、二つの小惑星が日本の観測チームによって発見された。小惑星は「カグツチ」「クシナダ」と命名され、衝突を避ける対策が講じられるなか、2043年にAGI(汎用人工知能)が誕生し、ブレイクスルーがもたらされる。“人類の生存と幸福”を原則に、統合AGI「デウス」が示した生き残り策は、地球からの脱出、または地下シェルターへの避難というプランだった。

再会してつきあい始めた蓮と彩音だったが、高校卒業後の進路は分かれる。父親の跡を継いで蓮は航空学生として自衛隊に入り、彩音は東京の大学に進学する。小惑星衝突の「Xデイ」が近づき、蓮は地下シェルターの警備で避難者と暮らすことになり、進む道はさらに隔たれていく。人類は分断され、孤立した。「メガインパクト」が起きた後の世界で、肉体の制約から解き放たれ、永い時を生きることになった蓮は――。

青春小説から歴史小説まで、幅広い作品を手がける著者による、本格SF小説。時間も空間も壮大なスケールの物語を、巧みな構成と高い筆力で一気読みさせる快作だ。

犬を盗む』 佐藤青南:著/実業之日本社:刊/1,870円(税込)

『犬を盗む』・表紙

『犬を盗む』
実業之日本社:刊

広大な敷地にたたずむ日本家屋で、一人暮らしをしていた80歳の資産家の女性が殺害された。警視庁捜査一課の植村は、玉堤署の下山らと事件現場を検証する。遺体は死後1週間以上が経過し、屋内には金目の物を物色した跡があった。都内に住む娘に話を聞くと、被害者は10年前から犬を飼い始め、親族と疎遠になっていたという。

コンビニでアルバイトを始めた鶴崎は、夜勤をしながら同僚の松本と親しくなり、松本が飼い始めたというチワワの散歩を買って出る。実は鶴崎はフリーライターで、実話系ゴシップ誌で“裏の顔”を暴くために、過去のある松本に近づいたのだった。

1年前にペット飼育可のマンションに越してきたミステリー作家の小野寺真希は、いつもと違う散歩コースに愛犬を連れていき、見覚えのある白いチワワを目にする。連れている飼い主が以前と違うことに気づいて、疑惑を深めていくのだが――。

気難しくて、親族も近隣住民も身辺に寄せつけなかった資産家の女性は、なぜ招き入れ、茶を振る舞った相手に殺害されたのか? 犬だけが知る真実とは? 自身も愛犬家である著者が、一匹の犬の数奇な運命を描く長編ミステリー。謎が深まり、犬と人間たちの関係が巡った末にたどり着く、ラストが切ない。

きときと夫婦旅』 椰月美智子:著/双葉社:刊/1,760円(税込)

書店に勤め、3年前から本部で在庫管理を担当する安納みゆきは、47歳。ある日、中高一貫校に通う中3の一人息子が家出してしまう。息子の昴は、富山県氷見市に住む友達の家に、親に無断で遊びに出かけたのだった。

息子の突然の家出に慌てるみゆきをよそに、夫の範太郎は楽しげだ。出版社で販売営業部に所属する範太郎は鉄道好きで、一緒に富山に行くという。結婚して17年。いつの頃からか、夫婦はほぼ口を利かずに過ごしていた。

氷見市に向かうルートには、範太郎が乗ってみたい鉄道がたくさんあった。北陸新幹線、富山地方鉄道、あいの風とやま鉄道、万葉線、JR氷見線……。富岩水上ラインにも乗り、久しぶりに夫婦水入らずで話していたとき、範太郎の学生時代の後輩に偶然遭遇する。ぎくしゃくしつつも、なんとか二人で昴を迎えに行くと、思いもよらぬ決意を言い出される。

〈人の一生ってなんなんだろうなと唐突に思う。昴を生んでからは子どものトピックスをもとに、自分の年齢を思い浮かべることのほうが多かった〉。3日間の旅を通して変わる家族を、鉄道や食、風景、ユーモアとともに描いた夫婦ロードノベル。みゆきと範太郎の視点をかわるがわるにして描かれていて、夫婦それぞれの本音が読める。

新! 店長がバカすぎて』 早見和真:著/角川春樹事務所:刊/1,760円(税込)

宮崎の店舗に異動していた山本猛店長が、3年ぶりに〈武蔵野書店〉吉祥寺本店に復帰した。朝礼は手短に済ませると言いながら、とうとうと話し続ける山本店長の変わらぬ風情に、谷原京子はあらためて苛立つのだった。

吉祥寺本店には文芸書担当が二人いて、京子が中堅以上の作家を、後輩の磯田真紀子が新人作家をと分担している。二人して今、注目しているのは、マーク江本という作家の小説だ。SNSで綴られていたものを、創業間もない出版社の編集者が発掘した作品だという。2年前に現れた新型ウィルスに翻弄されて働くうちに、京子は32歳になった。35歳で重責を担ったという山本店長から〈あとたった三年であなたを立派な店長にしなければなりません〉と突然発破をかけられて、京子は3年先を意識し、これからの書店員生活に不安を覚えてしまう。そんな中、半年前にアルバイトとして入った25歳の山本多佳恵が人を食う天然キャラぶりを発揮し、さらなる悩みの種となって――。

空想を凌駕するような出来事が日々起こる世の中で、物語や書店員の進む道とは? 2019年に刊行され、2020年本屋大賞にノミネートされた『店長がバカすぎて』の続編。働く人々の姿を、生き生きと描いている。

(C・A)

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