Web版 有鄰

588令和5年9月10日発行

キャンプ文化 – 海辺の創造力

猪俣慎吾

キャンプ業界で仕事をしていると、昨今のキャンプブームのせいもあって多方面から声をかけてもらう機会が多くなった気がする。今から18年前、まだカメラマンのアシスタントだった都会育ちの自分は、自然の中で過ごすキャンプに魅了されて、どっぷりとハマってしまった。当時は90年代の第一次キャンプブームが終わり、キャンプ業界の氷河期と呼ばれていた時代で、キャンプを趣味としている人は今ほどは居なかった。

今でも覚えているが、20代の頃に自分の友人に「最近ハマってる趣味は何?」と聞かれて「キャンプ」と答えたら、「変わった趣味だね」と返ってきた。当時はそれほどまでにキャンプは世の中に認知はまだされてなかった。

時が経ち2013年頃から現在まで続くキャンプブーム。自分が始めた頃に比べると、キャンプスタイルも独自の進化を遂げてきた。グランピングやソロキャンプなど人々の生活様式でキャンプスタイルが細分化されてきているのだ。

ブームとして世の中に認知されたキャンプは、果たして文化として根付いているのだろうか。日々それをテーマに活動はしているが、まだまだ道半ばだ。

文化としての「キャンプ」は日本にはまだ浸透していないと考えている。それを思ったきっかけがヨーロッパでのキャンプ旅だった。

特に印象的だったのは、フランスのソミュールという街の郊外で川があるキャンプ場でソロキャンプをしていた時だ。自分は景色とテントをどのように配置をしたら綺麗に写真を撮れるかと考えを巡らせていた。ふと、川の方に目を向けて見ると老夫婦が簡素な椅子と机を並べ、ワインを片手に椅子に座り、川に落ちていく夕陽を眺めてディナーを楽しんでいた。

海外のキャンプに浮かれて、日本から持ってきた選りすぐりのキャンプ道具を並べて自己陶酔気味にいた自分は、その光景を見て、自分の行動に恥ずかしくなるばかりか、キャンプの本質とは何かをその瞬間に老夫婦に教えてもらった気がした。

 

「キャンプ」とはあくまで手段である。

 

キャンプ道具などは二の次であって、大事な事は何をしにそこへ来ているかだ。理由や目的はなんでも良い。

 

「綺麗な夕陽を眺めたい」

「白樺の森の中でコーヒーを飲みたい」

 

目的からキャンプを考えれば、道具を揃えるのもシンプルになってくる。

そして世の中のキャンプ文化が発展していくのではと思っている。

自分はその後、結婚もして一人息子が生まれた。よく息子と二人で日本全国をキャンプで旅している。フランスでの体験を大事に日本の絶景を観たり、美味しい食事を作ったり、満天の星空を観たり…。大切な事は、道具を並べてひけらかすのではない。キャンプをする意味や目的を大事にしていきたい。そんなキャンプを写真に収められるように、キャンプ写真家として活動を続け、この日本でも、中身が備わったキャンプ文化が発展できるようにしたい。

(写真家&キャンプコーディネーター)

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