Web版 有鄰

487平成20年6月10日発行

有鄰らいぶらりい

飲んべえの品格』 いとうやまね:編/出版芸術社:刊/1,000円+税

「私は酒を飲まない。タバコをすわない。たっぷり寝る。それが私が100%完璧でいられる理由だ」(第一次大戦で独軍を破り英国のヒーローとなったモンゴメリー将軍)

「私はたっぷり飲み、少しだけ眠り、次々と葉巻を吸う。それが私が200%完璧でいられる理由だ」(チャーチル)

副題で「酒にまつわる名言集」と謳っているが、こうしたユーモラスな言葉も多い。

「1時間幸せになりたいなら、酒を飲みなさい。3日間幸せになりたいなら、結婚しなさい。1週間幸せになりたいなら、牛を飼いなさい。一生幸せになりたいなら、釣りをしなさい」は中国のことわざ。

酒に弱く甘党だった漱石から「あらゆる冒険は酒に始まるんです。そうして女に終わるんです」という言葉が引かれているのは意外だが、小説の登場人物の台詞だろう。

「世の中は酒と女が敵なり、どうか敵に巡り合いたい」は狂歌で有名な蜀山人(大田南畝)。

「お酒や煙草は一種のゆとりです。お酒を飲まないなんて、一歩も後に退がる余地のない崖っぷちに立っているような危険な状態です」は、漱石の弟子だが、飲んべえだった内田百閒(ひゃっけん)の言葉。

「楽しみに、又は道楽にお酒を飲むなど、飛んでもない不心得である」「なぜ汽車のお酒はおいしいか。飲んでいるお酒も60キロか70キロで飛んでいる。料理屋にはこんな早いお酒はない」「平生の口と味の変わるのがいけないのだから、特にうまい酒はうまいという点で、私の嗜好に合わなくなる」もすべて百閒(ひゃっけん)。ご本人の随筆を読んでない人には少々わかりにくいユーモアかもしれない。

星新一 空想工房へようこそ
最相葉月:監修/新潮社:刊/1,300円+税

『星新一 空想工房へようこそ』・表紙

『星新一 空想工房へようこそ』
新潮社:刊

没後10年、ショートショートがテレビでアニメ化されるなど、星作品の人気は依然おとろえていないようだ。

4章構成で第1章は「Mr.ショートショートの居た場所」。星製薬社長だった父親の跡取りとして生まれ、20歳まで住んだ本郷・駒込。大好きだった箱根・強羅の別荘。作家として30年間の生活拠点だった戸越(品川区)。晩年をすごした高輪(港区)の住宅や風物。なじみの文壇バー、銀座の「まり花」。星作品の舞台裏を、生い立ちなどとともにカラー写真で紹介する。

第2章「星流ショートショートのレシピ」では、「小説を書くのがこんなに苦しい作業とは、予想もしていなかった」という作者の苦闘を物語るおびただしいメモ、細かな字でぎっしり書かれた下書き原稿などを公開。

第3章「きまぐれ装画美術館」では、星作品のイメージを縦横無尽に広げた二人の名イラストレーター・真鍋博と、和田誠の華麗なイラストを披露する。第4章「エス氏のDNA—遺伝子を受け継いだ人たち」では、星に見出された作家、江坂遊、新井素子と、星の次女星マリナがそれぞれ思い出を語っている。

星の評伝もある監修者の最相が、随所に4編のコラムを載せ、巻末に年譜とコンパクトながら数寄を凝らした造りで楽しめる。

偏屈老人の銀幕茫々』 石堂淑朗:著/筑摩書房:刊/1,900円+税

60年代、日本のヌーベルバーグと呼ばれた今村昌平、浦山桐郎、大島渚、実相寺昭雄らの映画監督、死の直前まで「映画芸術」を主宰した評論家の小川徹や種村季弘など著者が大学時代、映画界を通じて交友のあった面々を回想する。

ほとんどが鬼籍に入った人々であり、脳梗塞と心筋梗塞の後遺症の治療中という著者自身の半生記とからませた追悼の記だが、いや、この点鬼簿のにぎやかなこと。

喧嘩、口論、酒、女、クスリ……バクチこそ出てこないが、狂気と才気にあふれた無頼な交友録が詰まっている。テレビ映画で飯を食うくらいなら土方になると宣言、本当に横浜港の沖仲仕になった前田陽一は、その後、癌におかされ、低予算映画の撮影中の朝、点滴を受けた病院で「貴方は夕方までに死にます」と言われた。頷いて、そのまま現場に行き、指揮を取りつづけた夕刻、ディレクターチェアに座ったまま人事不省に陥り息を引き取ったという。

映画評論家の斎藤龍鳳はハイミナール中毒で精神病院に入院、その治療が裏目に出て廃人同様になり孤独死する、など死に様も壮絶である

井上光晴と著者の口喧嘩を治めた吉行淳之介に、以後、頭が上がらなくなったエピソードをはじめ文壇人も登場する。

文豪の味を食べる
J・C・オカザワ:著/マイコミ新書:刊/840円+税

森鷗外、夏目漱石、永井荷風らの文豪を中心に、小津安二郎、黒澤明、岡本太郎らの巨匠、渥美清、石原裕次郎、美空ひばりなどの芸能人までいずれも故人となった45人ゆかりの店を、辛口評論家で知られる著者が、くまなく訪ねて格付けした本。

四段階の格付けは、ダブらないよう1人1軒にしぼっているが、各人好みの店の足跡(著者の造語では食跡)を、その人柄とともに紹介。単なるグルメ案内を超えた興趣がある。「文豪たちの食跡をたどっていると、否が応でも目立ったのがうなぎ屋と洋食屋の人気ぶり。驚くなかれ、鮨屋・天ぷら屋を圧倒しているのだ」(前書き)

鷗外が饅頭の茶漬けを好んだという話、三島由紀夫と松本清張の確執の話。その三島自決前夜、楯の会のメンバー4人と最後の晩餐を摂った店は最低ランクに評価されている。文豪や有名店の名に怖じず、褒めるべきは褒め、けなすべきはけなす態度が徹底していて、さわやかだ。

(K・K)

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