Web版 有鄰

570令和2年9月10日発行

今野 敏と『オフマイク』 – 人と作品

名物記者と敏腕刑事。
過去の真実を追う中で浮かび上がる真実とは――

今野 敏
今野 敏
撮影/chihiro. 提供:集英社

事件捜査とマスメディアの内側に目を向ける

報道番組の記者・布施と刑事・黒田。『スクープ』(単行本は1997年刊)から続く、人気シリーズの最新作だ。

「新聞学科で学びましたし、元々ジャーナリズムに関心を持っていたんですよね。新聞記者フレッチが活躍する海外ミステリーがあり、時代性からテレビ記者を主人公にして1作目を書きました。90年代は久米宏さんの『ニュースステーション』を筆頭に筑紫哲也さんも存命で、テレビのニュース番組がとても面白かったんです」

継続捜査を担当する刑事の黒田は、20年前の大学生の自殺に関する疑惑を聞かされる。聞き込みを始めると、「ニュースイレブン」の布施も事件を追っていた。

「黒田の担当が継続捜査ですので、過去の事件を洗う話になるんです。今回は、そういえば20年ほど前はITバブルと言われていたなと構想しました。IT社会で報道がどう存在していけばいいのかへの関心もありました。インターネットのメリットは速報性ですが、裏を取り、検証して報道するマスメディアの社会的役割はこれからも変わらないと思います。マスメディアには報道、教育、娯楽、警鐘の4つの役割がある。ただ報道するだけでなく、社会に警鐘を鳴らす役割を担っているはずです」

布施京一は、飄々としながら数々のスクープをものにしてきた名物記者。主人公だがその内面はわからない。

「彼の目線でない方が面白いなと気づいて、2作目から複数目線を採っています。ジャーナリズムについて真剣に考えて内面は熱いが、表に出さないのが布施。策略かもしれないし、素なのかもしれないし、ミステリアスさが加速していくようにして書いています。私は『隠蔽捜査』の時から小説を単一目線で書くと決めていて、複数目線を採っているのは今はこのシリーズだけですね」

シリーズ5作を通して読むと、報道や社会の変化が感じられて興味深い。今回は冒頭で、「ニュースイレブン」が打ち切りになるかという噂を黒田が耳にするのだ。

「ニュース番組が打ち切りになるなんて、以前は考えられなかったけれど今はあり得る話で、とりたてて世相を取り込もうとしているわけでなくても時代性は入らざるを得ないですね。実際のマスメディアに対してどうこうではなくて、私がこうあって欲しいなと思う放送局や記者を書いています。警察や警察官を書く場合もそうです。捜査も取材も、検証はもちろん、本質を見抜く力、洞察力が必要だと思います。それは本人にしかわかり得ないもので、布施という人物の秀でている点は、本質をあっという間に見抜く洞察力。刑事の黒田が記者の布施を認めているのはそのあたりだと思います。ベテランになるほど慣れてしまうものですが、布施はパターンに当てはめてものを考えることをしない。その姿勢は、ジャーナリストとして大切なことだと思っています」

普段目にしたもの感じたものを書く

1955年、北海道生まれ。78年、上智大学在学中に「怪物が街にやってくる」で問題小説新人賞を受賞。06年『隠蔽捜査』で吉川英治文学新人賞、08年『果断 隠蔽捜査2』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞をW受賞。17年「隠蔽捜査」シリーズで吉川英治文庫賞。

「漫画が好きで、子供の頃は漫画家になりたいと思っていました。小説は北杜夫さんの本に夢中になって小中学校の頃に読み、高校時代は筒井康隆さんを筆頭にSFをまとめ読みしました。ここ20年は村上春樹さんのファンになり、『一人称単数』も手に入れたところです(笑)。文章が心地よくてノスタルジーを感じるのは、結構いい年になった人が若い主人公で書いているからだと思います。そこに気持ちがシンクロして、50を過ぎた頃から新作が出れば読むようになりました。ほかにも少しずつでも、本は毎日必ず読みますね」

デビューして42年。月に5作程の連載を書き、10本を超えるシリーズを持つ。

「書き始めるとその作品の世界に入っちゃうので、あえて書き分けるでもなく次から次へ書いています。小説家って普段目にしたもの感じたものを書くしかなく、逆にその時々の感覚が書けない作家はだめだと思っていますね。抑えようとしても表れてくるのが現代性だと思います。『隠蔽捜査』は横浜で取材しましたし、『横浜みなとみらい署シリーズ』もあります。有隣堂で手に取っていただけると嬉しいです(笑)」

(青木千恵)

『オフマイク』・表紙

オフマイク
今野 敏/集英社/1,800円+税

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