Web版 有鄰 第528号 カバ先生になって/伊東譲司
第528号に含まれる記事 平成25年9月3日発行
カバ先生になって – 海辺の創造力
伊東譲司
長年、天気相談所にいたことから、多くの人が異常気象や災害に敏感になっていると感じている。異常な高温、大雨、雷に怖がる声だけでなく太陽光が演出する暈(かさ)や虹にも驚きの声とともに質問が届く。
著書『はい、こちらお天気相談所』は、そんな生の声がもととなり、現代人に知って欲しい気象の知識をカバ先生が答える本としてできた。
カバーにもある「カバ先生」のキャラクターはうまいこと娘が描いてくれた。
おかげで似ていると言われても嫌とも言えない。
コーナーの一つに「青空はなぜ青いのですか?」という質問がある。
暗い夜空に輝く星たちが、陽の光とともに消えていく理由と同じで、実は「大気の層があるため太陽光が、空気中のちりや水蒸気や空気の分子など大小の粒子により散乱される」のが原因となっている。
「空が青く見えるのは空一面に散乱されやすい短波長側の青の光が広がっているから…」が答えであり、さらに「空気中に水蒸気が多いと波長の長い赤系の色も散乱されるため、空の色は白っぽくなり、春には『霞』と呼ばれる『もや』がかかったような空が見えたり、夏の空が白っぽく見えたりする。」と、知識が深まるように書いてある。
ジェ!ジェッ!と驚かれるほどではないが、自分にも快晴の空の青さに感動したり、飽くこともないまま様々な形に変化する白い雲を眺めては時を過ごしたり、夕暮れになるまでずっと茜空を見続けては涙した若い頃があった。
成長後、そういった記憶は、なぜそうなるのかという疑問に変り、それを解き明かしてみたいと思うようになったのが、気象庁の予報官を目指すきっかけとなっている。
母校である小田原の城山中学では、クラブ活動として百葉箱で気象観測を行い、市政15周年という巡り合わせの中3の夏、15年分の気象統計をまとめるため、今では見ることもない、手廻しのタイガー計算機を駆使する毎日が続く夏休みを過ごした。
翌年、小田原高校に進学後、印刷・製本した冊子が完成したが、セレモニーの席での感謝状は後輩に授与された。万感の思いが詰められた1冊は今も大事に保存している。
地道な活動の継続が認められ、後になって城山中学校に気象庁のアメダスが設置されたことは、私の密やかな誇りとなっている。
時は経ち40歳で長年の夢であった予報官になった。その後、気象衛星の雲解析、コンピュータ画面での天気図解析、天気予報など最新の知識を要する仕事に明け暮れた。おかげで定年を迎える1年前、これまで培ってきた知識を書き残すかの如く、下山紀夫共著『天気予報のつくりかた』を著すことがかなった。この本は今もプロの気象予報士が読み返す最新技術の本として評判を得ている。
本作りは今も続いているが、「気象台の『台』とは何?」など本に書ききれない話はまだまだある。興味のある方は、「伊東譲司のオモシロ天気塾」 http://tenkijuku.com/index.html をぜひお尋ねいただきたい。
(元気象庁天気相談所予報官・気象予報士)
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