Web版 有鄰 第589号 地球の裏側にも未来にも/金野典彦

第589号に含まれる記事 令和5年11月10日発行

地球の裏側にも未来にも – 海辺の創造力

金野典彦

当店「ポルベニールブックストア」は、2018年11月にオープンした、個人で営む新刊書店だ。鎌倉市の大船にあり、JR大船駅東口から徒歩6分。昔ながらの路面の市場がある商店街を抜けると、ほどなく当店の青のペンギンマークの看板が見えて来る。店内在庫は約4千冊で、置く本は主に人文・社会系の書籍。生き方・働き方、国内・海外の旅や地域文化、翻訳ものの文芸、本やことばに関する本などの分野に特に力を入れている。ネットショップで通信販売も行っているので、全国どこからでも購入が可能だ。

開業の背景には、若い時に世界を旅した経験がある。20代半ばの頃、バックパッカーとして、ユーラシア・南米・北米の三大陸30か国を、可能な限りバスや鉄道などの陸路の公共交通機関を使ってトータル1年8か月、旅して回った。世界は広く様々な土地と文化があり、人はその土地の食べ物を食べその土地の流儀で生きていることをアタマではなくカラダで理解したことが、その旅のいちばんの収穫だった。そのことを自分の気に入ったローカルな街で暮らしながら伝えていくことを模索しているうちに、帰国後に長く働いていた出版社での経験も生かせる本屋の仕事に行きついた。大船を選んだのは、育った街・横浜に近く、交通の要所で人の往来が多く、人の関係がフラットで街が「ひらいて」いる感じがして、気風が自分に合うように感じられたからだ。

「個」を大事に考える当店は、ベストセラーランキング(=マジョリティ)は追わず、独自の選書に力を入れている。私が何かを押し付けられるのが嫌いで同調圧力大っ嫌い!なので、「~すべき」といった、人に圧をかけ煽るようなトーンの本は一切置いていない。当店に入ったら、誰もが余計な圧を感じることなく、ひとりの個人に戻って、その人のペースで心ゆくままに自由に本棚を巡り、「みんな」ではなく「あなた」のための本に巡り会って欲しい。店主のサポートを得て自分に合う本と出会いたいと考える人のために向けた、予約制の「対話型個別選書」も実施している。

店名の「ポルベニール」とキャラクターのペンギンは、あの旅の最中に訪れた地球の裏側・南米大陸パタゴニアのフエゴ島にあるチリの小さな町の名と、訪れたペンギンのコロニーの風景に由来する。「ポルベニール」はスペイン語で「未来」という意味で、本があれば時空を超えて「地球の裏側」にも「未来」にも行ける、という二重の意味を込めている。

と書いたところでふと思い出す。有隣堂さんと言えば、私と同世代の神奈川育ちの人ならわかる、昔のあのテレビCMを。♪一冊の本があれば、地球の裏側へ旅することもできる…♪あれ、「地球の裏側」って…店名の理由は体験に基づいた自分のオリジナルのつもりでいたけれど、意識下に少年の頃に聞いた、あののんびりしたCMソングがあったのかもしれない。

(大船「ポルベニールブックストア」店主)

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