Web版 有鄰 第564号 『八本目の槍』/今村翔吾 ほか
第564号に含まれる記事 令和元年9月10日発行
有鄰らいぶらりい
『八本目の槍』 今村翔吾:著/新潮社:刊/1,800円+税
天正11年(1583)4月、織田氏の後継者をめぐって対立していた実力者、羽柴秀吉(のちの豊臣秀吉)と柴田勝家が近江国(現・滋賀県)で激突する、「賤ケ岳の戦い」が発生。秀吉が勝利を収めたこの戦いで、戦功をあげた若者たちがいた。後世、彼らは「賤ケ岳七本槍」と呼ばれるようになる。
文禄元年(1592)、子供の頃から秀吉に仕え、賤ケ岳で戦功をあげた虎之助(加藤清正)は、唐入り(朝鮮出兵)で海を渡り、故郷に戻れぬ覚悟を決めた。豊臣家の中枢を担うつもりが大坂から遠く肥後に封じられ、唐入りで二番備えの大将を命じられたのだ。同じ小姓出身で、秀吉のそばで出世をする佐吉(石田三成)への怒りが膨らんでいく(「一本槍 虎之助は何を見る」)――。
虎之助、助右衛門(糟屋武則)、甚内(脇坂安治)、助作(片桐且元)、孫六(加藤嘉明)、権平(平野長泰)、市松(福島正則)。秀吉の配下で天下統一を支えた若者たちは、それぞれの道を歩んだ。本書は7人の歩みを追いながら、秀吉亡き後の豊臣家で国の未来を見つめた男、石田三成の姿に注目する。2018年刊行の『童の神』で直木賞候補になった新鋭が、独自の史眼と巧みな筆致で描き上げた、読み応えのある歴史エンターテインメント。
『漣の王国』 岩下悠子:著/東京創元社:刊/1,800円+税
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- 『漣の王国』
東京創元社:刊
スランプに悩む水泳選手の瑛子は、プールサイドの外に佇む美貌の女子学生に目を留める。水泳部のエース、綾部蓮の最新の恋人らしい。医学生の猫堂によると、彼女は妊娠しているようなのだが(「スラマナの千の蓮」)
山麓の修道院で、ある修道女が失踪した。同室の少女に尋ねると、修道女は失踪する前夜、「秘密のロザリオ」を描いていたという(「ヴェロニカの千の峰」)
今は結婚をして、幼い子供と日の大半を過ごしている朝子は、かつて半年だけ、水泳部の綾部蓮と交際していたことがある。破局し「王国の外」に追放された朝子は、留学生のライラと出会った(「ジブリルの千の夏」)
忘れられない、天衣無縫の美しい王様――。端正な顔立ちとずば抜けた身体能力を持つ水泳の天才、綾部蓮は、人々を魅了する「遠い国の王様」のような存在だった。水泳の才能に愛憎を抱いた者、王国を追放された者、彼らが見た蓮の姿は一面に過ぎず、彼が自殺したとき、その理由を知る者はいなかった。
青年は、なぜ自ら命を絶ったのか。綾部蓮と出会った四人の物語を通し、輝かしい存在がそこにいた、人生において忘れがたいひと時を描き出す。謎に迫り、読後、深い余韻を残す。俊英が紡いだ連作ミステリー。
『店長がバカすぎて』 早見和真:著/角川春樹事務所:刊/1,500円+税
28歳の谷原京子は、とにかく本が好き。東京・武蔵野地区を中心に6店舗を展開する〈武蔵野書店〉吉祥寺本店で、契約社員として働いている。朝の忙しい時間に繰り広げられる店長の朝礼に苛立ち、常連客に叱られてへこみつつ、憧れの先輩、小柳真理さんに悩みを聞いてもらっていた。ところがある日、小柳さんから退職すると打ち明けられて……。
数年前のビジネス書をスタッフに薦める、とらえどころのない店長。京子が推薦コメントを書いたデビュー作が大ヒットしたものの、その後のブレークがなく、日常の不満をSNSで発信する作家。他の書店を称賛し、売れ行きを伸ばすように檄を飛ばす社長。さらに、アルバイト学生の木梨から大手出版社に就職が決まったと聞かされ、京子は焦る。そろそろ30歳、いくらなんでも「本が好き」だけでやっていけるのか。退職届を抱く京子のもとに、木梨が出版社の新人営業社員としてやって来る。
相次ぐ出来事に悩みながらも頑張る京子を主人公に、書店員の日々と出版業界の実情を描いた仕事小説。2015年に日本推理作家協会賞を受賞した『イノセント・デイズ』、今年テレビドラマ化された『小説王』などで知られる著者による、長編エンターテインメント。
『絶声』 下村敦史:著/集英社:刊/1,600円+税
〈親父が死んでくれるまであと一時間半――〉。17年半ぶりに会った姉も現われ、落ち着かない時を過ごす大崎正好。兄の堂島貴彦、姉の美智香とは異母兄弟の間柄で、資産家の父の後妻の子だ。母とともに家を追い出され、貧困生活を送ってきた。
父の堂島太平は、『昭和の大物相場師』として名を馳せた資産家で、膵臓がんを患った状態で失踪した。行方不明者の生死が7年以上明らかでない場合は家庭裁判所に申し立てることができ、失踪が宣告されて行方不明者が死亡扱いになると、財産の相続も可能だ。兄が申し立てをし、失踪宣告の瞬間を待ち望んでいた正好だったが、“その瞬間”のわずか9分前、「父さんが生きてる」と兄が駆け込んでくる。『私はまだ生きている』と題して、父のブログが突然更新されたのだ。ブログには、第三者が知るはずのない内容が記されていた。父は生きているのか。生きているとすれば、相続はどうなるのだろうか?
正好は借金を抱え、兄、姉も事業は火の車。それぞれに裏がある兄弟は、更新されるブログに翻弄されることになる。その真相は? 2014年に『闇に香る嘘』で江戸川乱歩賞を受けてデビュー、話題作を続々発表する著者の最新ミステリー。真相が知りたくて引き込まれる。
(C・A)
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