Web版 有鄰 第566号 『ザ・ロイヤルファミリー』/早見和真 ほか
第566号に含まれる記事 令和2年1月1日発行
有鄰らいぶらりい
『ザ・ロイヤルファミリー』 早見和真:著/新潮社:刊/2,000円+税
税理士の栗須栄治は、大学時代の友人と再会して競馬に行き、これが縁になり、友人の叔父・山王耕造が経営するロイヤルヒューマンに転職する。労働者派遣法が施行された1986年に設立され、99年の法改正で業績を伸ばした人材派遣業を主とする会社だ。平成不況と業界の激変期で社内は落ち着かず、創業以来の幹部が去り、秘書課に異動した栗須は、社長の専属マネージャーの立場になる。
“成り上がり”などの批判を払うように山王耕造は馬主活動にのめり込み、大枚をつぎ込んでいく。山王が馬主を務める馬は「ロイヤル」の冠が付き、栗須とかつてつきあっていた加奈子の実家ノザキファームの生産馬が「ロイヤル」の一員に加わり、ロイヤルホープと命名された馬が快進撃を始める。馬主としての栄光を手にした山王だったが、違法派遣を指摘されて窮地に陥る。妻から離婚を切り出されても、山王の情熱は尽きなかった――。
2015年に日本推理作家協会賞を受けた『イノセント・デイズ』、昨年刊『店長がバカすぎて』などで知られる人気作家の最新長編。徹底取材により、競走馬の世界と関わる人々の姿をリアルに描き出している。ワンマン社長とその家族、馬たちの運命が時と共に移り変わる。人生の光と影、夢を問う力作だ。
『みちづれの猫』 唯川 恵:著/集英社:刊/1,500円+税
20年前、雪の日にやって来た猫、ミャア。ミャアの具合が悪いと聞き、三人姉弟が帰省する。真ん中の「私」はもうじき廃止されるという特急「はくたか」で……。(「ミャアの通り道」)
離婚で傷ついた江美の部屋に、茶トラの牡猫がやって来る。茶太郎と名づけた猫により江美の生活が変わっていくが、ある日、茶太郎がいなくなってしまう。(「運河沿いの使わしめ」)
健康そのものだった末っ子の辰也が、31歳で急死してしまった。息子に先立たれた富江は、放心状態になってしまう。ある日、辰也の知り合いという若い女性から連絡が来る。その女性、元村千佳は妊娠していた……。(「陽だまりの中」)
ほか、祖父母の家を孫が訪ねる「祭りの夜に」、アレルギーで猫を飼えない亜哉子の物語「最期の伝言」、かつての恋人と33年ぶりに再会する「残秋に満ちゆく」、離婚した女性のその後の人生を描いた「約束の橋」を収める。2001年に『肩ごしの恋人』で第126回直木賞、2008年に『愛に似たもの』で第21回柴田錬三郎賞を受賞した著者による、愛猫家でなくても胸打たれる喪失と再生の物語。傷ついた時、傍らにいた猫に救われた女性たちを描く、全7編である。
『山の上のランチタイム』
高森美由紀:著/中央公論新社:刊/1,600円+税
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- 山の上のランチタイム
中央公論新社:刊
青森県の南に位置する標高約500メートルの葵岳。その登山口にある「コッヘル デル モタキッラ」は、地元の人から親しみを込めて「葵レストラン」と呼ばれる。地元の食材を使って創作料理や弁当を次々作る店長の明智登麿は、布巾で手を拭う姿さえ映えるイケメンシェフ。スタッフは店長と、その甥でお手伝いをする美少年・瑛太、20歳の青木美玖の3人。元柔道部の美玖は「活きのいい仔熊」と常連さんから形容されるほど元気いっぱいで、店長に片思いをしている。
お弁当を手に、子どもたちを連れて山頂の社に向かう「七歳児参りのふっくらムニエル」。不登校の瑛太が中学の同級生に誘われて山に行き、はぐれてしまう「崖っぷちのオッキ・ディ・ブエ」。山頂の結婚式を描いた「塩むすびのてっぺんマリアージュ」、老婦人が冬山を登る「四十年のミルフィーユ」、そして「リスタートのトリュフチョコ」の5話を収める。
春夏秋冬、彩りを変える里山に抱かれた、地方のレストランをめぐる人間模様が読みどころだ。物語が連なるうちに、主人公の美玖ら人々の過去や悩みが掘り下げられ、美味しい食べ物や自然と共にそれぞれの気持ちも変化していく。山やレストランを訪ねてみたくなる、味わい深い連作短編集だ。
『犯人に告ぐ3 紅の影』 雫井脩介:著/双葉社:刊/1,800円+税
老舗菓子メーカーの社長とその子どもが誘拐され、籠城騒ぎにまで発展した事件から2週間後。神奈川県警特別捜査官の巻島史彦は、捜査に引き続き取り組んでいる。事件の闇は深く、誘拐犯の1人は先に摘発された振り込め詐欺グループの指南役だった「アワノ」であり、殺人事件の犯人〔リップマン〕と同一人物とみなされていた。レスティンピース(安らかに眠れ)を意味する「RIP」の文字を被害者の服に残したことから、〔リップマン〕の異名で呼ばれる男だ。
AI(人工知能)やインターネット・テレビのアバターなど、あらゆる手法を使って警察が追跡するが、犯人は捜査網をかいくぐり、新たな犯罪をもくろむ。〔リップマン〕はなぜ警察の動きを察知できるのか。警察に内通者がいる? 一体何者なのか。
「劇場型捜査」を描いて大ヒットした『犯人に告ぐ』(単行本は2004年刊)、警察、誘拐犯、被害者家族の駆け引きを描いた『犯人に告ぐ2 闇の蜃気楼』(2015年)に続く、警察小説シリーズの第3弾。巻島が知能犯を追う警察の動きを詳細に描く一方で、犯人の人間像や、社会のあちこちに根を張る犯罪グループにも迫る。著者の手練の筆致により、捜査の展開と人間模様に引き込まれるサスペンス。
(C・A)
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