Web版 有鄰 第593号 こだわりは、エコと美しさ オリンピックも映画祭も、やる気と本気で取り組むフランス /髙野てるみ

第593号に含まれる記事 2024/7/10発行

こだわりは、エコと美しさ
オリンピックも映画祭も、やる気と本気で取り組むフランス

髙野てるみ

フランスの底力を感じさせるパリ・オリンピック

いよいよ、パリ・オリンピック開幕間近となった。

コロナ禍で開催した東京オリンピックは、いわば逆境にあっての開催であって、よくやったと褒められるべき歴史を刻んだと誇っても良いのかもしれない。

それでも、パリ・オリンピックはもっと偉いと思う。何しろ、東京は1年延期しての開催で、それをバトンタッチされたパリは、本来4年に1回というオリンピックのサイクルを乱すことなく、3年間しかないというのに文句やグチや、遅れそうになる言い訳など一切無く、余裕綽々で今年見事に開催をするのだから、大したものではないか。

ギリシャを出発した聖火がマルセイユに到着した時のニュースを観た時はときめいた。そのセレモニーは眼にも鮮やかで、海上と空を縦横無尽に使った美しい演出にうっとりさせられたものだ。単にスポーツの祭典を成し遂げるという情熱だけではなく、芸術的なムーブメントが起きていることを印象づけられた。

この聖火がパリに到着する場所は、オテル・ド・ヴィル・ド・パリだという。まるでお城のような建物だが、これが市庁舎なのだから、これぞパリ。今回のオリンピックのマラソンや陸上の場となるそうだ。

開会式はオリンピック史上初のセーヌ川という、水上を使っての開かれたスタイルで、セーヌ川に各国が船を浮かべ入場すると聞いただけでも、未だかつてない開会式になるだろう。

あるものを活用するエコ的な発想で、美しく

今回のオリンピックは、フランスが大切に守り続けてきた、いわゆる歴史的観光名所を競技場として使うという、その発想と工夫が素晴らしい。1900年、パリ万博の時にエッフェル塔と共に造られたグラン・パレを改修し、色も塗り替えるという決断も潔いものだが、それもオリンピックの後も持続可能にして活かすためという、先を見据えての賢いやり方だ。ここで繰り広げられるテコンドーとフェンシングがさぞかし輝くことだろう。馬術と近代五種はベルサイユ宮殿で、サーフィンはフランス領のタヒチでとか、何だか知れば知るほど夢のようなオリンピックが生み出されそうな予感と期待で一杯になる。

準備などに3年間しかないからこそ、あるものを活用する、老朽化した場をこの機にリニューアルするという、機を逃さない才気が溢れている。しかも、そうは簡単に真似が出来ないのは、付け焼刃では到底生み出せない場所や建造物を、100年レベルで長きにわたり大切にして今に至っていることだろう。その底力に脱帽するしかないのだ。

初心からブレない実行力に感服

こういう気骨と精神について想い起こされるのが、東京オリンピックの閉会式の最後に披露された、次回開催国としてのフランスのプロモーション映像のことだ。あの素晴らしさは衝撃的でもあり、記憶に新しい。映像と音楽が飛び交ったとたん、急にその場の空気が変わり、パンデミックに見舞われている世界に希望という名の魔法がかかったようだった。競技の会場となる場が次々と現れ、それらは誰もが憧れるパリの歴史的名所や建造物ではないか!それら既存の場を開放して、スポーツ競技の祭典を開催するとの宣言であった。圧倒的だった。

コロナ禍の終息がまだはっきりとしない暗雲垂れ込めるような時期、オリンピックを何とか無事に成し遂げたという安堵感に包まれたばかりの、多くの日本人にとっては虚を突かれるような想いもあった。眩暈にも似た衝撃を覚えながらも、やっていただきましょうー、次のオリンピックこそ大成功で、と私は心から叫んでいた。

そして迎えた2024年、オリンピックまであと100日という時期に、あの宣言どおりに準備万端進んでいることがニュースで報じられた。オリンピックの環境づくりには、今の時代の尖峰となるべき姿勢で取り組んで来たことを高らかに主張していた。そこにはかつて、東京で魅せたプロモーション映像で宣言していたことに違わず、エコロジー的に「あるものを活用する」しかも「最高に美しく」ということへのこだわりが、ブレも無く実現されている。眼を見張るほどに。

凄いなと思うのは、やると言ったらやるという完璧なものづくりをすること。これこそが、フランス魂なのだ。加えて環境にやさしいことを目指す姿勢はまだまだあり、選手たちのための栄養面や、CO2削減の面からも牛肉を使うことを控えた食へのこだわり。なんとキアヌという雑穀を活かしたメニューなどが登場するという。そんなメニューでの24時間体制のおもてなしも辞さないという。そんなことを知れば知るほど、パリ・オリンピックからは眼を離せない。開催前から、こちらにまで活力がみなぎって来て嬉しいものである。やる時はやる。本気になって、それも美しくなくては意味がない。誰もがそれを甘受する権利がある。自由で平等に、愛を持って。そんな生き方のフランスの人々の一人一人の人生に大きく刻まれようとしているのが今年のパリ・オリンピック。国際的にも大きな意味を持つ歴史的ムーブメントとなる。

世界一美しい、カンヌ国際映画祭

私は1980年代後半から、フランス映画の配給・製作を仕事にしてきたことで、文化・芸術について並々ならない意欲を燃やす彼ら、彼女らの生き方に触れ、今に至る憧れと尊敬の念を持ち続けている。彼らが誇りにする自国の映画づくりへのリスペクトの大きさも、真似の出来ないものである。国を挙げての映画への支援を惜しまないところが、文化国家の名に恥じないところだ。

映画といっても、フランス映画はハリウッド映画のように巨額をかけて作られ、大スターが出演して人気を博していくという狙いとは違い、低予算で作られることも多く、監督の描く主人公の男や女の生き方がテーマになっている傑作が多いのも興味深いところだ。

世界の三大映画祭として知られる、ベルリン、ベネチアに並ぶカンヌ国際映画祭(以降カンヌと表記)は日本でも憧れの的だ。そのカンヌは、私にとってどの映画祭よりも好ましく、このうえのない映画の祭典だと思えてならない。それはオリンピックの取り組みと同じように美意識を大切にしていることや映画へのリスペクトが半端ではないところである。

美しい映画祭を形づくるための決め事も多く、夜の上映回ではドレスコードがあり、参加者は全員が正装で臨まねばならないことを徹底している。レッド・カーペットを登るゲストの撮影をするカメラマンたちもタキシード必着だ。レッド・カーペットだけが敷き詰められ、大袈裟なデコレーションなど見当たらないシンプルな会場であるが、あっという間に黒と赤で織りなす、めくるめく唯一無二の情景が人々によって生み出されていく。このような演出が巧みなのだ。

ここに選ばれて上映される作品の品格も高められていくのは当然だろう。

カンヌと繋がるフランス映画祭・横浜

このカンヌと繋がって、リヨンと姉妹都市である横浜では、1993年からフランス映画祭が開催されてきた。カンヌが開催される5月の翌月の6月に行われ、カンヌで公開されたばかりのフランス映画を横浜で観ることが出来たのだ。カンヌさながらに華やかな映画祭となり、フランスから大挙して監督や俳優、映画プロデューサーなどが来日し、会期中、船上でのパーティも行われ大賑わいであった。一時期東京に移されたこともあり規模も変わったものの、今年3月に行われたフランス映画祭・横浜2024では、一般の劇場公開よりいち早く優れたフランス映画を楽しめる貴重な映画祭として開催され、持続可能な姿を見せ続けている。

エッフェル塔

パリ・オリンピックの競技場のひとつとして、今まで以上に煌めくあのエッフェル塔のことは、2022年12月に開催されたこの映画祭でも話題になった。

『エッフェル塔~創造者の愛~』(2021)がプレミア上映され、その後日本全国で劇場公開された。この作品のマルタン・ブルブロン監督が、映画祭の折に訪れた横浜で貴重な話を私に明かして下さったことを思い出す。

塔の建築を手がけたギュスターヴ・エッフェルが恋をしたという女性、アドリエンヌの名前の頭文字がAであったことから、あの塔の形がAラインになったということも映画で描いていたことは眼から鱗であった。そうか、そうだったのか。あのエッフェル塔は建築家自身の愛の証しだったとは。

しかし、作品の冒頭には「史実を基に自由に作った物語」というクレジットもあるので、どこまでが事実で、どこまでが監督のイメージなのか……。が、そこがフランス映画のいいところなのである。観る者の想像に委ねるから面白い。観客が観て初めて映画は完成するのだと言う映画監督も多いのだから。

このインタビューは、「スクリーン・オンライン」の拙連載シリーズ『髙野てるみのシネマという生き方』のvol24に掲載しているので、ご興味のある方は詳細をご高覧いただきたい。

また、フランス映画の多くが恋愛映画であり、人の恋愛を覗いて観ることが出来るのだから、フランス映画ほど面白いものはない。などと述べながら、フランス映画に生きている恋愛の記憶を辿り、フランスの人々の恋愛観を一冊にした拙新刊、『フランスの男と女は、歳をとるほど恋をする』を、有隣堂からオリンピックの時期に刊行していただくことになった。

こちらも、ぜひご高覧いただけたら嬉しい限りだ。

ご高覧いただいたうえで、気になるフランス映画をご覧になった皆さんとフランス映画に生きている恋愛の記憶を共有出来るなら、このうえもない喜びである。

髙野てるみ
ⓒYasui Susumu
髙野てるみ(たかの てるみ)

東京都生まれ。映画プロデューサー。シネマ・エッセイスト。著書『職業としてのシネマ』 集英社新書 946円(税込)、『ココ・シャネル 孤独の流儀』 エム・ディエヌコーポレーション 1650円(税込)ほか多数。

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