Web版 有鄰 第596号 阿津川辰海と『バーニング・ダンサー』

第596号に含まれる記事 2025/1/1発行

阿津川辰海と『バーニング・ダンサー』 – 人と作品

能力者を集めた捜査チームが、稀有な犯罪を追う――。
スリリングな捜査と精緻な謎解きが楽しめる長編小説

阿津川辰海 撮影/国府田利光阿津川辰海
撮影/国府田利光

様々な作品の影響を含んだサスペンス

異能力者による捜査チームが、犯罪を追う。SF×本格×警察ミステリーである。

「SFっぽい設定の『透明人間は密室に潜む』を書いた際、副産物で構想したものを元にした小説です。『うえきの法則』『金色のガッシュ!!』などいろんな作品の影響がありますが、基本的にはジェフリー・ディーヴァーの捜査サスペンス、リンカーン・ライムシリーズの影響が大きいです。小ずるい引っかけから大どんでん返しまで、ディーヴァー流のテクニックをなぞりながらアレンジをしていこうと思って始めました」

全世界に突如、100人の能力者が現れた。100の言葉に応じた能力を発揮する人々は「コトダマ遣い」と呼ばれる。

「能力を端的に表す言葉があるといいなと、100個に限定してリストアップし、死ぬと他の人に受け継がれる『ONE PIECE』の悪魔の実的な条件を加えていって、総称としてコトダマにしました。本作の事件の中心にいるコトダマ遣いを『燃やす』にしたのは、東野圭吾さんの『探偵ガリレオ』を意識して、最初に戦う相手は発火能力者がいいと思ったんです。『天空の蜂』の影響がある設定もあります。対発火能力ならどんな物語になるかを構想し、どう捜査させるかという視点で他の能力を決めていきました。主人公側が万能な能力を持つと、捜査でも駆け引きでもチートすぎて読みどころが生まれにくいので、小さな力の集合体のようにしたかったんです」

コトダマ遣いでもある刑事の永嶺スバルは、「警視庁公安部公安第五課 コトダマ犯罪調査課」に配属される。

「2、2、2でペアになる6人と上司1人、外部嘱託員1人という構成で、必要最小限の人数が8人でした。直感型の探偵タイプをまず考えて桐山が生まれましたが、その影となる永嶺の設定の方が膨らんで、語り手役を奪ってしまいました。桐山と対照的な頭脳型で、理知的に詰めて捜査を引っ張るんだけど、何かトラウマを抱えている」

謎解きもバトルもあるエンターテインメント長編だ。

「初めての長編連載で上手くいっているのか毎回わからなくて、書いている間は不安でしたね。ただ、廃工場のバトルなど、犯人との接触や対決シーンを書いているときは面白かった。アメリカの冒険小説は動きをスピーディーに書きますが、イギリスの冒険小説は一発のパンチを打つのに10行くらいある(笑)。何が起こっていたか、一瞬見失うぐらいに思考の流れなどを描くのは、日本のバトル漫画に似ているなと前から思っていて、感覚的に引き延ばされるシーンを書いてみたかったんです。今は、続編の話も含めて好意的な反応をいただいて、ほっとしています」

楽しくて仕方なかった読書体験

1994年、東京都生まれ。東京大学卒。2017年、本格ミステリー新人発掘企画「カッパ・ツー」により『名探偵は嘘をつかない』でデビューした。

「絵本の読み聞かせが好きだったそうで、小学校の頃は『ダレン・シャン』シリーズにはまり、イ・ヨンドの『ドラゴンラージャ』を買ってもらったりしてファンタジーが好きでした。青い鳥文庫のはやみねかおるさんの作品でミステリーに触れてはいましたが、中学1年のときに東野圭吾さんの作品を読んで驚いて、東野さん、宮部みゆきさん、伊坂幸太郎さんの作品を読んでいき、ミステリーってこんなに面白いんだと思いました。中高一貫校で中学生だけど高校の図書室に入りびたっていたら、司書の先生から『十角館の殺人』『イニシエーション・ラブ』『葉桜の季節に君を想うということ』を差し出され、新本格魔道に落ちました。小説を書き始めたのは小学5年の頃で、文芸部、東大新月お茶の会に所属して、3度目の長編投稿でデビューしました」

23年、『阿津川辰海 読書日記 かくしてミステリー作家は語る〈新鋭奮闘編〉』で、第23回本格ミステリ大賞【評論・研究部門】を受賞している。

「中学時代が、いちばん読書が楽しい時期だったと思います。中2の頃に読んだミステリーは異質な輝きを放っていて、楽しくて仕方なかったですね。今も楽しんでいますが、仕事という意識もありまして(笑)。恐らくずっとミステリーを書き続けると思っています。今回のようにSFなどの要素が入ることはあっても、いかに論理的な推理で謎が解かれるか、ミステリーの可能性を探っていきたい」

(青木千恵)

『バーニング・ダンサー』表紙

『バーニング・ダンサー』
阿津川辰海/角川書店/1,925円(税込)

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