Web版 有鄰 第597号 未来がなくても ひとり出版社のひとりごと /北尾修一
第597号に含まれる記事 2025/3/10発行
未来がなくても ひとり出版社のひとりごと – 海辺の創造力
北尾修一
8年前、百万年書房という屋号のひとり出版社を興した。3年前、『いつもよりも具体的な本づくりの話を。』(イーストプレス)という書籍を執筆し、「本なんて誰でも作れるんだから、みんなもっと本をつくろう」と訴えた。一昨年は「有隣堂遊説ツアー」と題して、20店舗以上の有隣堂を回り、それぞれの店頭で〈自由でかんたんな本のつくり方〉をお客さんに伝授してきた。
そんなあれやこれやが積み重なってきたせいか、ここ1年ほどは各所から「本の未来について考えるイベントに登壇してください」とか、「出版業界の未来というテーマでトークをしてください」という依頼が届くようになった。それについて思うことを、ここで記します。
アホか。
本の未来? ないって。ましてや出版業界の未来? あるわけがない。
こういう依頼をしてくる人たちは、たとえば「本というメディアが消滅することはありません」とか「出版は文化です、みんなで守っていくべきです」みたいな言葉を期待しているんでしょうが、そんな気休めを言ってギャラをもらってる人はただの詐欺師です。
冷静に現状を観てください。読む側が暗い気分になるのでここではいちいち挙げませんが、どこを見ても、私にも、あなたにも、明るい未来なんてない。私たちにできることは、今の状況に耐えることだけ。まずはそこから始めましょう。
だいたい、未来がないのは本や出版業界に限ったことじゃありません。たとえばレコードプレイヤーに未来なんてないじゃないですか笑。でも、未来がなくてもこれからも新しいレコードプレイヤーを開発する人はいるし、アナログレコードを買う人もいる。
癌を患って定期通院中の私自身にも、未来なんて(客観的に考えて)ない。でも、だからと言って明日死ぬわけじゃないし、1年後に刊行予定の原稿を今日も読みます。
未来なんてなくても自分はこれをやりたい。自分にとってそう思えることを見つけて日々を過ごしている人は格好いいです。映画『トップガン マーヴェリック』で、老いたパイロット役のトム・クルーズが「未来にきみの居場所はない、パイロットは絶滅する」と告げられて返す台詞、「でもそれは今日じゃない」。 目先のタイパを気にして、未来が保証されないことには手を出さない人生。あなたはそれを選ぶ人ですか?
甘い未来予測は信じない。未来が見えなくてもやる。日々の現状に耐えるしかない。耐えているうちに、ひょっとしたら状況が変わるかもしれない(し自分が生きているうちは変わらないかもしれない)。手元にあるのはそれくらいの、なんとも頼りない、不安と隣り合わせのうっすらとした希望。
だから、そのときに仲間が要るんです。仲間とはもちろん、顔が思い浮かぶお客さん・読者です(出版「業界人」はどうでもいい)。そういう仲間をどれだけ増やせて、その人たちとどれだけ楽しい時間を過ごせるかが人生でしょう。だから日々just do it.
百万年書房は、そんなことを考えながら本を作っているひとり出版社です。どうぞよろしくお願いいたします。
(株式会社百万年書房代表)
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