Web版 有鄰 第598号 丁髷落語家 東海道を歩く? /立川志の八

第598号に含まれる記事 2025/5/10発行

丁髷落語家 東海道を歩く? – 海辺の創造力

立川志の八

丁髷(ちょんまげ)にしました。いきなり言われても 「はぁ?」だと思いますが、私は頭のてっぺんを剃り丁髷にしたんです。

新型コロナウィルスが世界中で蔓延し、突然「出るな! 会うな!」と言われ、いつ明けるとも知れない脅威に世界中が不安になっていた2020年。私も仕事が一切無くなり、時間だけを持て余していました。本当にいつ終わるのか。外出もしない。人にも会わない。そうなると身だしなみにも気を使わなくなる。

元々無精な私は髭も髪も伸ばし放題。このままコロナ禍が明けず髪を伸ばし続けたらどこまで長くなるのかな? てなことを考えていました。

と、その時にふと頭に浮かんだのが“丁髷”。コロナ禍で伸ばした髪で髷を結ったら面白くないか? 髷といっても侍のソレではなく、私は落語家だし古典落語に出てくる江戸の町人たちのような髷を結ったら? それで落語をしたら? ……面白いかも。

そんなこんなで2年間髪を伸ばし続け、2022年6月、私は晴れて東西唯一の丁髷落語家となりました。めでたしめでたし……。

だがどうだろう? 丁髷にしたのはいいが、ちっともバズってない。イベントやライブ、人の集まるところで丁髷を晒し、取り上げてもらおうか? ただ、私は丁髷は見て欲しいけど目立ちたがり屋だと思われたくはない。人に迷惑をかけるなんてもってのほか。あくまでクールにバズりたい……。

そして、私の中で丁髷に続くプロジェクトが始動したのです。

『東海道五拾三次を歩く』

歌川広重の浮世絵で有名ですが、江戸は日本橋から京都三条大橋までのおよそ500キロの道のりを昔の旅ガラスの姿で歩こう! そうすれば少しくらい丁髷をチヤホヤしてくれるに違いない!

とは言うものの、人生でそんなに長く歩いたことなどない。体力だって自信があれば落語家なんてやっていない。それを昔の旅装束で歩くとなるとさぞ大変だろう……と他人事のように思う。だが今はまだ現実味がないからこそ想像は膨らむ。

私は戸塚出身なので、川崎から神奈川、保土ヶ谷と、箱根駅伝でもお馴染みの道を通りながら戸塚に入ってきたなら、沿道で友達が旗でも振ってくれるかしら。頑張ってと差し入れもあったりして。車に乗ってラジオを聴いていると必ず流れる渋滞の名所、原宿の交差点。「頑張ってね〜!」と地元民の声援を背中に受けながら藤沢へ。

後ろ髪をひかれながらも足を踏み出せば、やがて広がる湘南の海。空が澄んでいれば富士山も見えるだろうか。大磯に近づくにつれ潮の香りが誘ってきて、燦々と照りつける太陽を編笠をちょいと上げて恨めしそうに見上げながら、着物の懐からスマホを取り出して、イヤホンを耳に着けてサザンを聴く。そうなればサザエの壺焼きでも食べないとバチがあたるよなぁ。シラスは生より釜揚げの方が好きです。

とまあ……想像すれば不安より楽しいことばかりが先にたってしまうのが私の悪い癖。果たしてどうなることやら。とりあえず野毛の伊勢山皇大神宮に旅の成功をお祈りしに行こうかな。

(落語家 立川流真打)

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