Web版 有鄰 第599号 【インタビュー】「りぼん」のころ ――創刊70周年によせて /一条ゆかり
【インタビュー】「りぼん」のころ ――創刊70周年によせて
一条ゆかり
©一条ゆかり/集英社
―― 集英社が発行する少女漫画誌「りぼん」が、2025年8月に創刊70周年を迎えます。一条ゆかり先生は、「雪のセレナーデ」が1967年の第1回りぼん新人漫画賞で準入選となり、翌年に同作でデビューしてから30年近くにわたり、「りぼん」で活躍されました。
一条 70周年、私は「りぼん」より少し年上なんですね。小学校低学年の頃、母が私に「なかよし」(講談社)を買ってくれて、「りぼん」をとっていた友達と貸しあって両方読んでいました。手塚治虫先生の『リボンの騎士』が「なかよし」に載っていて、小学1、2年生の私は、『リボンの騎士』はなぜ「りぼん」じゃなくて「なかよし」に載ってるの? と不思議に思っていたんです。
―― 先生は16歳の時に単行本デビューをして、今年は画業60周年でもあります。
一条 そうですね、若木書房という出版社に原稿を送ったら採用されて、単行本をいくつか出しました。でも一生漫画家を目指すのならやはり雑誌だと思い、その頃に一番好きだった「別冊マーガレット」に応募することにしました。が、大好きな水野英子先生の新連載が「りぼん」で始まり、しかも!「りぼん」の新人賞の賞金額は「別マ」の二倍の20万円! 正直に言うと「りぼん」は年齢層が低すぎるとは思ったんですが、「愛」と「金」に目がくらんで、思わず原稿を「りぼん」に送りました。
―― なぜ漫画家になろうと?
一条 仲のいい2つ上の兄と一緒に保育園に通ってたんですが、兄の卒園後一人で通園するのが嫌でわずか5歳で通園拒否(笑)。でも、誰もいない家に一人でいるのも嫌で外に出て、地面に絵を描いていたら、いつの間にかギャラリーができていました。
小学校でも休み時間に絵を描いていたら人が集まって、褒めてくれたり、喜んでもらえたりするのが嬉しかったです。そもそも漫画が大好きで、小学6年の卒業アルバムの“将来の夢”には、漫画家と書きました。中学校に入るとぼんやりした憧れではなく、なろうかなという気持ちになり、毎日毎日ひたすら漫画ばかり描いてました。周りから漫画なんてと言われても、それだけが私の楽しみだったんです。
―― どんな漫画を描きたいと思っていましたか?
一条 こういう漫画を描きたいというのはなかったです。高1でセミプロになった後も自分はどんな漫画家を目指せばいいのか分からず手探りで、とりあえずいろんなものを描いてみようと。とにかく自由に好きなだけ漫画を描きたかったし、そのためにも早く家から出たかったですね。中学から高校ぐらいの私は人生について、自由について一番真面目に考えてました。
自由とは義務と責任を果たした後に手に入れられるもので、義務も果たさず自由ばかりを欲しがるのは、ただのわがままで子供だとね。新人のうちはとにかく何にでもチャレンジしようと色々描きました。「りぼん」を読む少女たちに何を伝えたいとか、少女たちのためにという気持ちもなかったですね。大人っぽいものが好きだったから、「りぼん」で仕事を始めた頃は、なぜ少女漫画誌? ああ、原稿を送ったのは私だって反省しました(笑)。18、19歳くらいの私はとてもとんがっていて、クラス委員長のなんとか君が素敵、継母にいじめられるけなげな少女といった、その頃の少女漫画のスタイルは体質に合わず嫌でした。ただ、世の中には大人の世界を覗いてみたい、大人ぶりたい女子がいて、そんな子の好奇心に私の描くものが合うと良いなとは思っていました。私が漫画を職業にしようと考えた最大の理由は、年齢も性別も学歴も収入も関係なく、作品だけで判断してもらえるところで、何も持っていなかった私には理想の職業でした。
―― その頃の編集部の雰囲気は?
一条 男性の編集者…おじさんばかり(笑)。耳に鉛筆をかけて仕事する感じの編集者を見ながら、この人たちが手塚治虫、ちばてつや、赤塚不二夫の諸先生たちと少女漫画を作っていたんだと感心しましたね。漫画家の個性を大事にしてくれる、作家ファーストの「りぼん」の編集方針は、私に合っていました。
―― 『デザイナー』(1974年)は、特別な作品だったとか。私は小学生のときに連載で読んで、ラストに衝撃を受けました。
一条 編集部の意見を聞きつつ、まっとうな路線で描いても読者からクレームが来る。自分の描きたいものを描いて言われるならまだしもと思って、次の連載は私の好きに描かせてほしいと言ったんです。それで「分かった」と言ってもらったときに、何を描くか全く決めていなかったという(笑)。私はいつもちゃんと「自立」して自分に「プライド」を持って生きていきたいと思っていましたが、男社会の田舎では女性は自立しにくくて、早くこの狭い社会から逃げ出したかったです。見栄とプライドは違う、見栄は張らなくていいけど、プライドは張りたいです。
それで『デザイナー』は、一つのことを生業にした人の決心と、どう生きるか、仕事に対するプライドを描きたいと思いました。性格は悪いけど、デザイナーとしての情熱を持ってトップに立ち続ける鳳麗香を主人公にしたかったんですけどね、さすがに少女漫画誌なので年下の亜美を主役にしました。思いっきり好き勝手に『デザイナー』を描いたらびっくりするくらい反響が大きくて、私の手に入れたいものと、少女の読者が心のどこかで望んでいることが離れていないと分かって、とても楽になったんです。『デザイナー』があったから『砂の城』を描けたと思います。『砂の城』を描こうと思ったきっかけは「プロとは何か」を考えたからです。主人公が自分とかけ離れたタイプでも、その女性の一生を最後まで描ききるのが『砂の城』のテーマでした。
―― 『砂の城』も大人の世界でした。私は一条先生と同期デビューした弓月光先生のファンで「りぼん」を読み始めました。いろんな漫画が載っているのがおもしろくて。
一条 そうそう、バラエティに富んでいて。一緒にデビューした私と弓月光、もりたじゅんちゃんは自分の漫画を描きたい、比較されたくないと思ったのかお互いどんどん違う方向に行って、見事にバラバラ。今思うと、癖の強い少女漫画誌だったわねぇ。いつもいつも漫画のことばかり考えていたから、うっかり恋愛ものの映画を観てしまうと、仕事モードになって楽しめないのよ。『マディソン郡の橋』なんて観たら、ディレクターのようになって構図が悪いとか(笑)。それで仕事から離れて純粋に映画を楽しみたいから『ダイ・ハード』やスパイものといった、絶対自分が描かないジャンルのものを観ていたんだけど、気がついたら『有閑倶楽部』を描いてた(笑)。日本一の漫画家になりたい! とか思ったことはないけど、「このジャンルのこういう話なら私が一番うまく描ける」って、プライドを持てる漫画家になりたいとは思ってました。そういう意味で『有閑倶楽部』は私にしか描けないと思えるので、今は漫画家としてやりきった感がありますね。
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- 『一条ゆかりポストカードBOOK 塗り絵倶楽部』集英社
集英社 公式サイト 書籍情報
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- 『男で受けた傷を食で癒すとデブだけが残る たるんだ心に一喝!! 一条ゆかりの金言集2』集英社(電子書籍限定)
集英社 公式サイト 書籍情報
―― 今はエッセイも好評で、今年2月、WebマガジンOurAge(アワエイジ)の連載を再編集したエッセイ集と、『一条ゆかりポストカードBOOK 塗り絵倶楽部』が同時発売されました。漫画家の発想は個性的で、まさに金言の数々ですが、時代が流れていく中で、自分の世界を大切にする、ぶれないことは大事でしょうか。
一条 デビューする前に、これは決めておかないと後で悩むだろうなと思ったことがあります。
世間の評価と自分の評価が違う場合どちらを選択するか、受けたけど自分としては愛が足りない作品と、いまいちの受けだけど自分が描きたい作品。世間を取るか自分を取るかですね。この場合、全く受けない作品というのは仕事が来ないから当然除外です(笑)
私が漫画家を目指したのは人気と金欲しさではなく、自分の描きたい漫画を描いて生活したいという思いからだったので、自分を取ることに決めました。っていうか、その頃の少女漫画の王道からは完全に外れた思考だったので、人気も金も縁がないと思ってましたよ(笑)
両方取りたいからぶれるので、どちらか決めた方が悩まなくていいと思います。
―― これからいろんなものに出会っていく読者に、何かアドバイスがありましたら。
一条 一時期は大勢の日本人が海外旅行に出かけていたのに、今は日本人のパスポート保有率が20%以下になっているんです。携帯と自分の周りにしか関心がないという縮小傾向が進んでいると思います。でも自分から縮小しなくていいと思うし、可能性を探って、広げてほしい。せっかくの人生なんだから、ただ無難に暮らすことしか考えない大人はつまらないと思うけど。食べるのも本を読むのも、見たり嗅いだり、ページをめくるときの手触りとか、五感から得られる情報はすごく多いんです。私は海外を色々訪ねて、あんなに出ていきたかった日本を見直しました。五感を働かせて、視野を広げて、日本を好きになってほしいと思います。
聞き手 青木千恵(本紙編集委員)
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