Web版 有鄰

526平成25年5月1日発行

書籍の紹介ゲーム ビブリオバトル – 1面

谷口忠大

本の紹介を通したコミュニケーションゲーム

春を迎え入学式で盛り上がったキャンパスも落ち着きを見せ始め、はしゃぎすぎた時間を終えて、ちょっとした疲れが見えてくる季節です。5月。皐月。

新年度のお祭り気分も落ち着いて、そろそろ地に足をつけた日常活動を送らねばと、新入社員も入学生も思っている頃でしょう。人の配置が変わった環境で、多くの人が、自分の位置づけ、人間関係の落ち着きどころを探っている時間。それが、5月という季節です。

さて、そういう季節に「読書」についてのお話です。この人間関係を再調整しないといけない季節のなかで、読書を僕たちはどう活用できるのでしょうか。読書と人間関係。この珍しいお題は巷で噂の「ビブリオバトル」にとっては恰好のネタ振りとなるのです。

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発表参加者は5分間で本を紹介する。
2013年2月24日、たまプラーザ テラスで開催された“ビブリオバトル in 有隣堂”

「ビブリオバトル」とは、2007年にとある大学のとある研究室で始めた書籍の紹介ゲームです。2010年から徐々に普及が始まり、いまや全国に愛好者を生むに至っています。開催する団体や場所も、一般企業、大学、高校、中学校、小学校、書店、図書館、個人、一般家庭、読書会と多岐にわたっています。このビブリオバトルは「人を通して本を知る、本を通して人を知る」というキャッチフレーズで親しまれ、正に人間関係を育むことのできる、読書に関するアクティビティ(活動)として知られてきているのです。

ビブリオバトルの公式ルールは左のようなものです。

公式ルール
1.発表参加者が読んで面白いと思った本を持って集まる。
2.順番に1人5分間で本を紹介する。
3.それぞれの発表の後に参加者全員でその発表に関するディスカッションを2~3分行う。
4.全ての発表が終了した後に「どの本が一番読みたくなったか?」を基準とした投票を参加者全員一票で行い、最多票を集めたものを『チャンプ本』とする。

開催スタイルは各開催団体ごとに様々ですが、発表者は大体、1回5人程度、参加者は5名~20名程度で集まって楽しく開催します。

ゲーム感覚で、この簡単なルールを守って遊ぶだけで、ビブリオバトルは様々に有意義な効果を生み出してくれます。ビブリオバトルの主な機能として挙げているのは、次の4つです。

1.参加者で本の内容を共有できる。(書籍情報共有機能)
2.スピーチの訓練になる。(スピーチ能力向上機能)
3.いい本が見つかる。(良書探索機能)
4.お互いの理解が深まる。(コミュニティ開発機能)

まず、ビブリオバトルでみんなが本を持ち寄って紹介しあうので「書籍情報共有機能」があるというのはよいとして、次の「スピーチ能力向上機能」ですが、持ってきた本の魅力を即興の語りで目の前のみんなに伝えないといけないために、スピーチのよいトレーニングになります。ビブリオバトルが「知的書評合戦」という言葉をよく冠することもあり、人によっては難しく感じて敬遠される方もあるのですが、ビブリオバトルの実態はそんなに畏まったものではありません。発表者は持ってきた本を

「えーと、僕が紹介する本は『ハゲタカ』です。これはですねぇ、経済小説といえば、経済小説なんですけど、その、すごく面白いんですね。えっと、どう面白いかというと…」

という風に、シドロモドロながらに紹介する。そこから、聞く側も「フムフム」となんとか発表者の意図を汲み取ろうと聞き入る。本の魅力に関する誠実な告白タイムこそビブリオバトルらしさだと思います。

ビブリオバトルが繋ぐ 人と人と 本と人

さて、特に重要な残り2つの機能が、「良書探索機能」「コミュニティ開発機能」です。特に後者の「コミュニティ開発機能」がビブリオバトルならではの機能であり、コミュニティの中で「その人がどんな人か」「どんな興味を持っている人なのか」「なんの話題だと話せそうか」という知識を参加者の間で共有することを加速させます。それが、コミュニティの人と人を繋いでいく効果を持つのです。

具体的な話をしましょう。ビブリオバトルでは発表者は「読んで面白いと思った本」を持ってきます。これはその人が面白いと思った本なので、その本を見ることで「その人がどんなことに興味を持っている人なのか」がわかります。また、5分間の語りを通じて「その本からどういうことを感じたか」「その中でどういうところに特に興味を持っているのか」などが見えてくることで、その人の人となりがうっすらと見えてくるのです。さらに、ビブリオバトル5分間の発表の中では平均して1分半から2分程度は、本の内容でなくて自分の事を話すことが僕たちの研究からもわかっています。

「なんで、この本を今日紹介しようと思ったかというと、実は僕が入社する前に、親父から社会人の心構えみたいなことを諭されたわけですよ。まぁ、この歳になって、そんなこと言われると、『何を!』って思うんですが、でもまぁ、親父のいうことも一理あるなぁ、と、で、こういう本でも読んでみようかと…」

というように、本を紹介する時にどうしても、動機や自分史を話すようになります。ここに、ビブリオバトルが、人と人を繋ぐコミュニケーションメディアとして成立するポイントがあるのです。

この小見出しを「ビブリオバトルが繋ぐ人と人と本と人」としました。

「やけに、人って文字が多いな?」

と思われたかもしれません。しかし、この3つの人は、無駄に多く書いているわけではありません。この3つの人はそれぞれ違う人を指しているのです。1つ目の人は著者であり、2つ目の人は読者、3つ目の人は「もう一人の読者」を指します。

本を読むことで、読者は著者の考えを知ることができます。これが通常の本のメディア(媒体)としての理解です。ビブリオバトルを遊ぶことで本はもうひとつのメディアとしての姿を現します。それは、読者と読者をつなぐメディアとしての姿です。ビブリオバトルで本を語るとき、読者の語るスピーチは、その読書体験を踏まえた新たな創造的活動であると言えます。つまり、二次創作です。著者が書いた形式知としての書籍は、読者によってクリエイティブに読み解かれます。その後、改めて読者によって語られる語りは、著者の考えと、読者の考えや経験を織り交ぜた新たなストーリーとして息を吹き込まれ、ビブリオバトルの場に集まる読者に伝わるのです。本は読者と読者を繋ぐメディアになるのです。

大学から始まり書店、図書館、小中高校へ

2010年に大学を震源地として広まり始めたビブリオバトルですが、この3年間で随分と多様な展開を見せるようになりました。書店では例えば2011年からは紀伊國屋書店が新宿南店において定期開催を行なっていますし、その他、街のイベントや学校、一般企業、ワークショップなど、列挙しきれないほどの多くの事例があります。

昨年度を振り返ると、2012年度の特徴的な広がりは、やはり図書館での広がりでしょう。2011年の奈良県立図書情報館での開催から少しずつ広がってきた公共図書館でのビブリオバトルは、2012年には伊丹市立図書館、堺市立中央図書館、大阪府熊取町立熊取図書館など次々と広がっていきました。そして、ビブリオバトルはライブラリー・オブ・ザ・イヤー2012の大賞を受賞するに至ったのです。ライブラリー・オブ・ザ・イヤーは今後の公共図書館のあり方を示唆する先進的な活動を行なっている機関を対象に与えられる賞であり、その歴史においては、ほぼ全てを図書館が受賞していました。ビブリオバトルのようなゲーム・概念が受賞するのは全く初めてのことでした。

2013年度はどのような広がりをしていくのでしょう。もちろん、書店でも図書館でも大学でも、一般企業の中でも、より広がって行くでしょう。その中で、敢えて2013年のトレンドを述べるなら、(1)小中高校(2)国際化の2点だと思います。高校については年始から猪瀬都知事が東京都の全高校にビブリオバトルの実施・参加を働きかける旨を宣言し、話題になりました。また、東京都のみならず、全国の様々な自治体においても教育現場での活用検討は始まっています。学校単位では既に、ビブリオバトルが導入されているところは多くあります。国際化は英語や中国語など多国語での開催であり、または、留学生と日本人との交流における活用にあります。ビブリオバトルが日本語でしか出来ない理由はなく、また、国を跨いだビブリオバトルは、お互いの国の文化的背景が語りを通して表出するため、異文化理解の文脈で非常に有効であると感じています。

いずれにせよ、僕たちが一番願うのはビブリオバトルを通して「人と人と本と人」が繋がっていく楽しい時間と、それを通じた成長が、多くの人を幸せにしていくことであることは、常に変わりません。 是非、皆さんもこれを機に、最近読んだ本を片手にビブリオバトルに挑戦してみて頂きたいと思います。新緑の5月、新しくビブリオバトルに挑戦し、皆さんの心のなかにある「本への想い」を表へと芽吹かせるには丁度良い季節なのではないでしょうか?

4月には拙著『ビブリオバトル』(文春新書)も発売されました。ぜひご一読ください。

谷口さん・写真
谷口忠大 (たにぐち ただひろ)

1978年京都府生まれ。ビブリオバトル普及委員会理事。立命館大学情報理工学部准教授。
著書『コミュニケーションするロボットは創れるか』(NTT出版)、ほか。

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