Web版 有鄰

507平成22年3月10日発行

有鄰らいぶらりい

一話3分 落語ネタ入門』 桂 歌若:著/朝日新書:刊/780円+税

約80席に及ぶ古典落語そのもののストーリーを紹介した上で、舞台となっている江戸庶民の生活や落語家のエピソードなどを付け加えた本。

例えば「長屋の花見」は貧乏長屋の一行が花見に出かける話で、卵焼きは沢庵、カマボコも大根の漬物。酒は番茶を薄めた「おちゃけ」。江戸時代には卵もカマボコも高級品で庶民の口に入りにくかったことが背景にある。しかし、現代では大根のほうが高値のこともあり、桂歌丸の弟子である著者自身、寄席で若い客から「大根の方が卵より高いでしょう」と真顔で言われ、困ったことがあるという。

子供たちにも流行った「寿限無」は、「寿限無寿限無」に始まり「グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助」と終わる長い名前をつけた八五郎の話。

「ちりとてちん」は、日ごろ食通ぶっている男が、腐った豆腐を食べさせられる話。同題でNHKの連続テレビドラマにもなったが、これは上方落語界一門の話。故・古今亭志ん朝にも食べさせる相手が違うだけで、ほぼ同じ噺があり、こちらの演題は「酢豆腐」である。

噺の世界へ入りやすくするために、必ず入れるマクラの話や、高座に付き物の手拭い、扇子、座布団、出囃子なども「仲入り」として紹介される。

戦後落語史』 吉川 潮:著/新潮新書:刊/700円+税

同じ落語でも、こちらは落語そのものではなく、東京落語界の話。上方落語界は扱われていない。

昨年の11月現在、東京の落語家の数は、落語協会が約240名、落語芸術協会約120名、立川流47名、円楽一門42名。合計で約450名になるという。

戦後初の落語ブームは昭和26年に始まった民放ラジオ局の開局による落語番組の増加によるとか。落語家のテレビ進出には批判もあるが、落語の盛衰は、放送界と密接な関係があるようだ。

落語を知らない人にも人気の「笑点」の前身は昭和40年に始まった「金曜夜席」で最初の司会者は立川談志。人気が出たため翌年から土曜放送にかわり、当時人気の小説三浦綾子『氷点』をもじって「笑点」となったという。

会長の5代目柳家小さんと前会長・6代目三遊亭円生の真打昇進をめぐる対立にはじまり、現在の四派並列に至る落語協会の分裂騒動。はじめ円生についた当時の三羽烏、談志、古今亭志ん朝、5代目三遊亭円楽それぞれの複雑な動き。史上初、春風亭小朝の先輩二つ目36人を飛び越した真打昇進……。個々の落語家のエピソードとともに、落語界全体の盛衰の歴史を描いている。

「甘え」と日本人』 土居健郎・齋藤 孝:著/角川書店:刊/705円+税

昨年、故人となったが、代表的な日本人論として広く海外にも紹介されたベストセラー『「甘え」の構造』の著者である精神医学者と、新潮学芸賞を受けた『身体感覚を取り戻す』や『声に出して読みたい日本語』など 身体文化の復活を唱えている教育学者との対話である。

子供が親に「なつく」という自然な甘えを肯定的にとらえている土居は、近年、この言葉が「甘ったれ」とか「甘やかす」という感心しない意味にしか使われていないと指摘する。その原因は、「甘え」という言葉を持たない欧米から来た自由・平等・自立といったイデオロギーにあり、母親にとって便利ということもあって、子供たちは早くから自立を促される。「甘え」を奪われた子供は男性に多い引きこもりや、女性に多い拒食過食などの摂食障害、ひいては精神病や犯罪が増える結果になるという。

一方、10代から『「甘え」の構造』のファンだったという齋藤も、日本文化は「甘え」ることを積極的に評価していたと見る。「甘え上手の基本には他者に『触れる』身体感覚がある」と、「甘え」を身体論から一つの技と捉える。そのためには、使う技術やタイミングが重要で、一人部屋を与えて他者との関係を絶つような「甘やかし」でなく、肌と肌を合わせるような「甘え」こそが、将来の自立を促すと提言している。

知っておきたい世界七大宗教
武光 誠:著/角川ソフィア文庫:刊/560円+税

知っておきたい世界七大宗教・表紙

知っておきたい世界七大宗教
角川学芸出版:刊

今の世界紛争はキリスト教・ユダヤ教vsイスラム教の宗教戦争とみることができる。3つの宗教はいずれも一神教であり、自らの神を信ずるものは善、信じない異教徒は、悪という単純な二元論が根底にあるからである。そのキリスト教では、かつてカトリックvsプロテスタントの熾烈な宗教戦争があった。イスラム教では現在、スンニ派とシーア派が激しく対立している。

著者は前記の宗教に仏教を加えて、多様な民族に広がった「世界宗教」とする。さらに1つの民族だけに通用する「民族宗教」として、道教、ヒンドゥー教、神道をあげ、世界7大宗教としている。

「ブリタニカ」「宗教年鑑」による七大宗教の信者数で一番多いのはキリスト教の約20億7千万人。以下、イスラム教、道教、ヒンドゥー教、仏教、神道とつづき、最少のユダヤ教は約1,700万人。3位の道教約12億5千万人だけが著者による推計だが、2,000万人という推計もあるという。これは道観という道教の施設で修行する道士と道観の後援者を合わせた数で実情に合わず、中国人の大部分は道教的生活を取り入れていると著者は言う。

それぞれの宗教の成り立ちから世界観、道徳と戒律、その広がりや分裂の状況などを世界史とともに考えた本である。

(K・K)

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