Web版 有鄰

505平成21年12月10日発行

有鄰らいぶらりい

完本紳士と淑女』 徳岡孝夫:著/文藝春秋:刊/1,200円+税

著者は、今年の6月号で休刊になった月刊誌『諸君!』巻頭の有名コラムを、匿名で1980年から30年間、書き続けた。この本には、うち263本を収録している。

世相全般をユーモラスにあげつらっているが、わけても痛烈なのは、”進歩的”マスコミや文化人への批判。たとえば、1981年の2月号では林彪失脚と江青ら4人組の裁判を取り上げ、こう書く。

「4人組への起訴状では、文化大革命で『死者3万(実際には数100万から1000万以上と言われている)、迫害されたもの51万』となっております。ああ、その大革命は、わが国の知識人、大新聞がこぞって鑽仰したものであります。『武闘はない』と断言したものであります」

1984年8月号では「北朝鮮『金正日時代』へ着々」という朝日新聞の特集記事をあげ「1950年代のソ連、60年代の中国に感激し続けてきた新聞社だから、いまさら文句はないけれど、ちょっと民主主義の初歩を教えておきましょうか?」と皮肉る。

2002年3月号では4月から始まる”ゆとり教育”について「日本の公教育の瓦解」と書き、「ゆとりができた。誰に?教育労働者に」と書く。

そうした予見性も含め、辛辣な文明批評をユーモアでくるんだ最近にない快著といえる。

笑える!世界の七癖エピソード集
岡崎大五:著/PHP研究所:刊/680円+税

アジア放浪の旅のあと、海外専門の添乗員から作家となった著者が、これまでに世界83か国を訪問した経験から各国人の奇癖を披露する。

中国人は交通機関などで決して並ばないのに対し、アメリカ人は並ぶのが大好きという。

添乗員としてアメリカに行ったときのこと。バスのドライバーが言った。「お前、『インデペンデンス・デイ』を観たか」「観たよ。アメリカの大都市にUFOが現れ、エイリアンと戦う話だろう」「そうだ。おれはあの時、アメリカを離れていたから助かったがああいうことが起こるようでは、やはり軍備をしっかりしておかないといけないな」

映画の話を鵜呑みにするアメリカ人の悪いクセは、ホワイトカラーには少ないから、教育格差が激しい事情を物語っていると著者は言う。

クセというにはひどすぎる悪習が旧ソ連の中央アジアやコーカサス地方の国。ウズベキスタンの首都タシュケントでは警官からパスポートを要求され、うっかり渡すと詰め所で賄賂を要求される。トルクメニスタンの税関では難癖をつけられて100ドル取られ、アゼルバイジャンでは入国審査官が「プレゼントが無ければスタンプは押さない」と100ドル要求され、20ドルで手を打ったという。

日本語は本当に「非論理的」か
桜井邦朋:著/祥伝社:刊/760円+税

副題は、NASAの主任研究員やメリーランド大教授を務め国際的に活躍した「物理学者による日本語論」。

そうした国際舞台で、日本人の言葉遣いはあいまいで分かりにくい、と評判が悪い。

著者は「…と思います」という言葉が、日本人の論理力を破壊している、と言う。たとえば、サッカーJリーグのある選手が国際試合の前に語った、「相手は強いと思うので、しっかり戦わないといけないと思うから、頑張りたいと思います」という言葉は、3つの「思う」がそれぞれ別の意味で使われている。

英語の「think」という単語は、十分に思考を重ねた結果、到達した内容を言い表す場合に用いるため、気軽に使えないという。多くの日本人が「▽▽へ出かけたいと思います」という表現の英語訳を「I think that I want to go…」とするだろうが、「I think that」は不要だと著者は言う。こんな英文を見た英語圏の人は、日本人はこんなことまで「think」するのかと驚くだろうというのだ。

一方で、日本語は本来、欧米の言語に劣らず論理的であり、豊富な表現力を持つ言語であるとも言う。日本語を正しく使えないと英語も正しく使えない。幼児に対する英語教育などはもってのほかと、読み・書き・話し・聞くという母国語の言語教育の必要性を力説している。

小説永井荷風伝』 佐藤春夫:著/岩波書店:刊/700円+税

小説永井荷風伝・表紙

小説永井荷風伝
岩波書店:刊

荷風は私小説家ではないが「その強烈な個性」と習癖とは、作品のすべてににじみ出しており、青年時代からの日記もあり、「自叙伝作家とでも名づけて然るべき文学者」と著者は言う。

「わたくしはこれに真偽のほども疑わしい伝説を採り加え」観察や解釈さては感情移入、思い出などをもまじえたと、小説荷風伝と名づけた理由を語っている。ただし、少年時代から荷風の文学に心酔、慶応義塾の教師をしていた当時の荷風を慕い、その学生になったこともある著者だけに「真偽のほども疑わしい伝説」はほとんど入っていない。

著者と荷風とはほとんど文学談義ばかりだったというが面白いのは、しょっちゅう荷風の色道世界武者修行の話を聞いていた人物と連れ立って銀座で会ったときの話。

このとき、荷風は今までに馴染んだ東西の情人の写真をただ1人を除いて全部持っていると言った。同行者が荷風美学の具体的標本として死後も残すべきだと言い、著者もその気になって頼むと、荷風は「え、あげますよ」と答えたという。さらに後日、自分から「この間の写真の話」を切り出し、没後には、佐藤慵斎(著者の雅号)に贈る、と明記した、と語ったという。

昭和35年新潮社発行の単行本から収録。他に昭和22年国立書院発行の『荷風雑観』を底本とした「最近の永井荷風」など3篇を収録。

(K・K)

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